高額レセプトが発生すると、患者には高額療養費制度が適用され、月ごとの自己負担額は、年齢と所得によって決められた自己負担限度額にとどまる。しかし、その分は、国民健康保険など加入する保険者が負担することになる。したがって、予想を大幅に超えるような高額レセプトの発生は、規模の大きい保険者であれば影響は少ないが、規模の小さい保険者においては保険財政を不安定にする要素となる。
そこで国民健康保険(市町村国保)や組合健保では、高額レセプト発生による保険財政への影響を緩和するために、それぞれ保険者による拠出金を使った共同事業が行われている。
1|国保連合会による「高額医療費共同事業」(市町村国保)
市町村国保は、保険者規模に差があるだけでなく、地域ごとに医療費や所得による差があるため、医療費負担の多い市町村の負担を軽減する仕組みを導入している。高額なレセプト発生に対しては、「保険財政共同安定化事業」や「高額医療費共同事業」が行われている。
1件のレセプトが80万円を超える場合には、「高額医療費共同事業」によって、各市町村国保からの拠出金と、国及び都道府県による負担(市町村の拠出金に対して1/4ずつ負担)による交付金を交付している。また、1件のレセプトが30万円を超え80万円を超えない場合には、「保険財政共同安定化事業」によって、各市町村の拠出金を財源とする交付金を交付してきたが、2015年1月からは対象が拡大し、1円以上のレセプトに適用することになった。
さらに、2018年度からは、規模の小さい市町村に変わり、都道府県が財政運営の責任主体となることで、安定的な財政運営や効率的な事業の確保等の国保運営に中心的な役割を担い、制度を安定化させる。
2|健保連による「高額医療交付金交付事業」(組合健保)
健保連の「高額医療交付金交付事業
12」は、組合健保の財政基盤の安定と事業運営の効率化を目的として、すべての組合健保からの拠出金による交付金を、高額療養費の一部として交付している。交付基準は、一般疾病については1件あたり100万円、特定疾病
13については40万円を基準として、それを超えた部分について一定のルールに基づいて交付してきた
14が、2013年11月以降は、一般疾病についての基準が120万円に上がった。
交付金事業は、事業規模が定められているため、財源とのバランスから基準も上がったようであるが、規模が小さい保険者にとっては、安定的な運営が難しくなると考えられる。
12 健康保険法附則第2条に規定する法定事業。
13 長期にわたって高額な医療費を要する疾病。人工腎臓を実施している慢性腎不全、血友病、抗ウイルス剤を投与している後天性免疫不全症候群。
14 具体的には、基準額以上200万円以下の部分については半分、200万円以上の部分については全額に対してあらかじめ決まった交付率を乗じた額を、400万円以上の部分については全額交付している。