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ふるさと納税「お得競争」の終焉-ポイント還元の廃止で問われる「地域貢献」と「持続可能な制度」のこれから

2025年09月17日

(小口 裕) 消費者行動

1――はじめに

1|ふるさと納税「ポイント廃止」が投げかける問い
2025年10月1日に、ふるさと納税制度におけるポイント還元が廃止される1。対象は、ふるさと納税ポータルサイトを通じた寄付で付与されていたポイントやマイルなどの特典であるが、これまでポイントやギフト券などの還元キャンペーンが「お得感」を生み、利用拡大を下支えしてきた側面もあり、今後はふるさと納税の利用者層や返礼品の内容が変化していく可能性がある。

総務省の調査によれば、寄付額の半分近くが返礼・事務・ポータル費に支出され、地域財源として残るのは半分強にとどまる2。本稿の分析結果からは、実際の利用者は高年収層や高額寄付層が多く、「幅広い利用者が地域応援に参加する」理念と現実にはやや乖離があることが否めない。

そこで本稿では、この制度を地域の「持続可能性を支える仕組み」としていかに再設計できるかに注目する。消費者の「持続可能性への意識」を高める制度としての可能性を評価しつつ、現状の問題点と今後の課題を整理してみたい。
 
1 2024年6月28日、総務省はふるさと納税の指定基準を改正する告示を出した(総務省告示第203号)
2 総務省「ふるさと納税に関する現況調査(令和7年度実施)。データ詳細は後述する。

2――ふるさと納税の見直しの内容と背景

2――ふるさと納税の見直しの内容と背景~制度趣旨への回帰

1|見直しの要点は「ポイント廃止」と「返礼品基準の厳格化」
一般的に寄付者はポータルサイトを通じて自治体に寄付を行うが、自治体は寄附獲得のためにサイト掲載料や決済費用などをポータル運営事業者に支払っている。この手数料の一部が利用者へのポイント付与の原資となり、事業者によるポイント付与・利用者獲得競争に拍車をかけていたとされており、総務省はこの点を長く問題視してきた。

今回の見直しの最大のポイントは、寄附に伴う金銭的・経済的利益、すなわちポイントやマイルの付与を明確に禁止した点である。さらに、過剰な広告や返礼品強調による誘引行為も制限され、これらは2025年10月1日から施行される。

返礼品の基準も一段と厳格化される。地場産品の要件では、食肉熟成や精米を県内原料に限定し、宿泊サービスは県外ブランド施設を対象外となる。加えて、高額宿泊は1泊1人5万円以下とすることで、豪華返礼品への偏りを防ぐ仕組みが導入される。経費上限は従来どおり「寄附額の50%以内」を維持しつつ、ポータル費用や広告費の管理をより厳密に行う方向性が示されている(表1)。
2|見直しの背景~「節税+お得感」から「地域応援重視」への舵切り
この見直しの背景には、本来の目的である「地域活性化・自治体応援」から逸脱し、実質的に「節税+お得感」が前面に出ている実態にある。また、高所得層に偏った利用者構成を是正し、不公平感への批判に応えることも目的と思われる。

一方で、企業や利用者の受け止めは分かれている。ポータル事業者からは「ポイント禁止は消費者の選択肢を奪い、経済効果を縮小させる」との批判がある一方、制度趣旨の回帰を歓迎する声も見られる。また、利用者の声を拾うと、「お得感の喪失」に対する素朴な不満もあれば、「公共財源の透明性」や「制度本旨との整合性」を重視する前向きな評価もあり、両者が共存している様子が伺える。

こうした反応は、ふるさと納税を通じた「地域活性化・自治体応援」という目的に対して、事業者・利用者内でも少なからず温度差が存在することを示唆しているとも言える。

3――ふるさと納税の実態

3――ふるさと納税の実態~高額寄付の傾向と地域の偏在

では、実際のふるさと納税はどのように利用されてきたのか。総務省の「ふるさと納税に関する現況調査(令和7年度)」を見ると、制度の規模と構造が浮かび上がる。
1|受入額の推移~新規参入や裾野拡大よりも進む高額寄付化
受入額の推移をみると、制度創設当初(2008年~)は受入額100億円前後、件数も10万件未満にとどまっていたが、2015年には1,652億円/726万件となり、その後は右肩上がりで拡大しており、2024年には1.27兆円/5,879万件と過去最高額に達している(数表1)。

ただし直近では受入件数は横ばいとなり受入額のみが増加していることから、新規参入や裾野拡大というより、既存寄付者による高額寄付が進んでいる様子がうかがえる。背景には「自己負担2000円」の控除設計があり、所得が高いほど寄付可能額の上限が広がる仕組みがあるとされる。

生活研究部   准主任研究員

小口 裕(おぐち ゆたか)

研究領域:暮らし

研究・専門分野
消費者行動(特に、エシカル消費、サステナブル・マーケティング)、地方創生(地方創生SDGsと持続可能な地域づくり)

経歴

【経歴】
1997年~ 商社・電機・コンサルティング会社において電力・エネルギー事業、地方自治体の中心市街地活性化・商業まちづくり・観光振興事業に従事

2008年 株式会社日本リサーチセンター
2019年 株式会社プラグ
2024年7月~現在 ニッセイ基礎研究所

2022年~現在 多摩美術大学 非常勤講師(消費者行動論)
2021年~2024年 日経クロストレンド/日経デザイン アドバイザリーボード
2007年~2008年(一社)中小企業診断協会 東京支部三多摩支会理事
2007年~2008年 経済産業省 中心市街地活性化委員会 専門委員

【加入団体等】
 ・日本行動計量学会 会員
 ・日本マーケティング学会 会員
 ・生活経済学会 准会員

【学術研究実績】
「新しい社会サービスシステムの社会受容性評価手法の提案」(2024年 日本行動計量学会*)
「何がAIの社会受容性を決めるのか」(2023年 人工知能学会*)
「日本・米・欧州・中国のデータ市場ビジネスの動向」(2018年 電子情報通信学会*)
「企業間でのマーケティングデータによる共創的価値創出に向けた課題分析」(2018年 人工知能学会*)
「Webコミュニケーションによる消費者⾏動の理解」(2017年 日本マーケティング・サイエンス学会*)
「企業の社会貢献に対する消費者の認知構造に関する研究 」(2006年 日本消費者行動研究学会*)

*共同研究者・共同研究機関との共著

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