流体の渦
流体の渦(台風、竜巻、旋風、渦潮等)には、様々なタイプがあり、その形状は、流体の特性や周囲の環境によって異なっている。代表的な渦の形状としては、例えば以下のようなものがある。
これらの渦は、右巻きと左巻きの両方が存在し、形成される条件や環境によって異なってくる。例えば、台風やハリケーンの渦は、コリオリ力(地球の自転による力)の影響により、通常、北半球では左巻き、南半球では右巻きになる。
・対数螺旋
対数螺旋は、流体の動きが渦を形成する過程で現れる一般的な形状となっている。例えば、自然界では、台風やハリケーンの雲の渦巻きとして観察されることがある。
・螺旋状の渦
螺旋状の渦は、流体が軸方向に進むと同時に回転することで形成され、螺旋階段のような形状をしている。例えば、ジェットエンジンの排気流やプロペラが回転しながら進む水流で観察される。
・ケルビン・ヘルムホルツ不安定性の渦
密度や移動速度が異なる流体が層をなして水平運動するときに発生する渦で、波状の形状が成長して渦巻きに発展する。
例えば、風が水面を吹くときや、異なる流速を持つ大気の層の間で発生する。
渦巻銀河
渦巻銀河の渦巻は、星々やガスが対数螺旋の形状に沿って分布している。この対数螺旋の特性により、渦巻銀河の美しく調和の取れた形が形成されている。
銀河の渦も、右巻きと左巻きの両方が存在し、特定の方向に優勢な形状はないようだ。
渦状紋(うずじょうもん)
「渦状紋」は、円形または渦巻状の線で構成されている指紋で、日本人の約5割が渦状紋といわれている。また、渦状紋といっても、右渦巻き環状紋や左渦巻き環状紋等を初めとしていくつかの種類があり、個々人によって異なっているようだ。
螺旋の例
ここまでは、平面螺旋に相当する渦巻きについて、その具体例を挙げてきた。
ここからは、具体的に螺旋が観測されるものの例を挙げることとする。
ねじ山
ねじは、円筒状のものや円錐状のものの外側の面、もしくは内側の面にそって凹凸の溝を螺旋状につけているが、この螺旋状になっている部分を「
ねじ山(screw thread)」と呼んでいる。
また、螺旋が右回りになっているもの(時計回りに回すと締め付けられる場合)を右ねじ、左回りになっているもの(反時計回りに回すと締め付けられる場合)を左ねじと言う。殆どのねじは、右利きにとってねじを締める時に力が入りやすいことから、右ねじになっており、左ねじは特殊な用途の場合(ねじで固定するもの自体がねじ頭の役割をしたり、回転したりする場合等)に限られている。
コイルばね
「
コイルばね(Coil spring)」は、エネルギーを蓄えて続いて放出したり、衝撃を吸収したり、あるいは接触している面間の力を維持したりするために、典型的に使用される機械的装置で、螺旋状に整形された弾性素材から作られ、荷重がかかっていない時は自然長へと戻る。
コイルばねもねじと同様に、通常右巻きとなっているが、特殊な場合(ねじの逆回転防止等)に左巻きとなっている。
ドリル
「
ドリル(drill)」は、回転する刃を対象物に押し当てることで削り取り、切りくずを排出しながら穴を掘り進める切削工具で、刃の部分が螺旋状になっている。
ドリルもねじと同様に、殆どが右巻きだが、特定用途(折れたボルトやねじを取り除くため等)の場合に左巻きになっている。
螺旋階段
螺旋階段は、まさに柱や壁を支え等にして螺旋状になっている階段のことをいう。英語ではspiral staircase、helix staircase、spiral and helical stairs等と呼ばれる。小さなスペースにも設置できることから非常階段によく使用されている。
螺旋階段には、(上から見て)右巻きまたは左巻きの螺旋形状がある。
なお、円形だけでなく、四角い螺旋階段もある。
螺旋状の分子
螺旋状の分子としては、以下のものが挙げられる。
DNA分子
DNA(デオキシリボ核酸)は、2本のポリヌクレオチド鎖(13個以上のヌクレオチドモノマーが鎖状に共有結合してできた生体高分子)で構成され、それぞれの鎖は二重螺旋状になっている。
DNAは多くのコンフォメーション(立体配座)で存在するが、A型とB型は右巻き、Z型は左巻きとなっている。
タンパク質のαヘリックス
αヘリックス(Alpha helix)はタンパク質の二次構造の共通モチーフ(規則正しく繰り返される幾何学的な装飾模様の単位、またはその組み合わせ)の一つで、ばねに似た右巻き螺旋の形をしている。
つる植物のつる
つる植物(climbing plant)は、自らの剛性で体を支えるのではなく、他の樹木や物体を支えにすることで高いところへ茎を伸ばす植物である。
つる植物のつるは螺旋状になっているが、植物の種類によって、右巻きと左巻きの両方が存在する。朝顔等の多くのつる植物は右巻きになっている。つるの巻き方は、植物が光や重力に反応して成長する過程で決まり、遺伝的な要素も関与しているようだ。
理容店のサインポール(barber's pole)
理容店のサインポールは、赤・白・青の三色の縞模様が回転している。これはほぼ世界共通のマークになっているようだ。また、日本では、右側に行くにしたがって上がる、いわゆる「Z巻き」が圧倒的に多くなっている。
最後に
今回は、日常生活の中で見ることができる「螺旋」や「渦巻」の例について紹介してきた。
「螺旋」や「渦巻」については、日常生活の中で見かける機会も多く、ある意味で親しみやすい曲線であるといえるのではないだろうか。ただし、一口に「螺旋」や「渦巻」といっても、いろいろな種類があり、それぞれが独自の特徴を有している。実際に、日常生活の中で見かけることがある螺旋等がどの種類のものなのかを認識することは難しい面もあると思われる。
それでも少なくとも各種の種類があるということを頭の片隅にでも記憶しておけば、何らの機会に「螺旋」や「渦巻き」が関係していると思われる物事や事象に出会った時に、より興味・関心をもって観測することができるかもしれない。
次回は、これらの「螺旋」や「渦巻」が社会の中でどのように役立っているのかについて報告する。