NEW

ふるさと納税「お得競争」の終焉-ポイント還元の廃止で問われる「地域貢献」と「持続可能な制度」のこれから

2025年09月17日

(小口 裕) 消費者行動

■要旨
 
  • 2025年10月1日、ふるさと納税制度におけるポイント還元が廃止される。
     
  • これまでポイントやギフト券などのキャンペーンは「お得感」を生み、制度の利用拡大を下支えしてきた側面があるが、今後は利用者層や返礼品の内容が変化していく可能性がある。
     
  • 総務省の調査によれば、寄附額の約46%が返礼品費用や事務費、ポータル手数料に充てられ、地域財源として残るのは半分強にとどまる。また本稿の分析結果からも、実際の利用者は高年収層や高額寄附層に偏りがあり、「幅広い利用者が地域応援に参加する」という制度理念との乖離が確認されている。
     
  • 一方で、利用者は教育・エネルギー・気候変動といった社会課題への関心が高く、寄附金の使途の傾向とも整合している点は、地域の持続可能性に資する公的制度としての意義を裏付けている。
     
  • 本稿では、ふるさと納税を地域の「持続可能性を支える仕組み」としていかに再設計できるかに注目する。消費者の持続可能性意識を高める制度としての可能性を評価しつつ、現状の課題と制度の今後の方向性を整理する。


■目次

1――はじめに
  1|ふるさと納税「ポイント廃止」が投げかける問い
2――ふるさと納税の見直しの内容と背景~制度趣旨への回帰
  1|見直しの要点は「ポイント廃止」と「返礼品基準の厳格化」
  2|見直しの背景~「節税+お得感」から「地域応援重視」への舵切り
3――ふるさと納税の実態~高額寄付の傾向と地域の偏在
  1|受入額の推移~新規参入や裾野拡大よりも進む高額寄付化
  2|受入額の傾向~「子ども・子育て」「教育・人づくり」といった社会基盤分野に集まる傾向
  3|事業経費の内訳~経費は寄付額46.4%、自治体実収は53.6%にとどまる
4――ふるさと納税の実態~利用者側の視点
  1|利用者側の視点から見た実態~支えるのは「高所得×働き盛り世代」
5――利用者側から見た実態~社会課題への感度と「お得感」の接点
  1|制度化された仕組みだからこその利用率?
  2|利用者層にみる「持続可能性に対する意識」の高さ
6――なぜ利用者から不満の声が上がったのか~やや唐突に映った「ポイント廃止」
7――持続可能な制度に向けて~「お得競争」から「社会的リターン(インパクト)」重視への転換

生活研究部   准主任研究員

小口 裕(おぐち ゆたか)

研究領域:暮らし

研究・専門分野
消費者行動(特に、エシカル消費、サステナブル・マーケティング)、地方創生(地方創生SDGsと持続可能な地域づくり)

経歴

【経歴】
1997年~ 商社・電機・コンサルティング会社において電力・エネルギー事業、地方自治体の中心市街地活性化・商業まちづくり・観光振興事業に従事

2008年 株式会社日本リサーチセンター
2019年 株式会社プラグ
2024年7月~現在 ニッセイ基礎研究所

2022年~現在 多摩美術大学 非常勤講師(消費者行動論)
2021年~2024年 日経クロストレンド/日経デザイン アドバイザリーボード
2007年~2008年(一社)中小企業診断協会 東京支部三多摩支会理事
2007年~2008年 経済産業省 中心市街地活性化委員会 専門委員

【加入団体等】
 ・日本行動計量学会 会員
 ・日本マーケティング学会 会員
 ・生活経済学会 准会員

【学術研究実績】
「新しい社会サービスシステムの社会受容性評価手法の提案」(2024年 日本行動計量学会*)
「何がAIの社会受容性を決めるのか」(2023年 人工知能学会*)
「日本・米・欧州・中国のデータ市場ビジネスの動向」(2018年 電子情報通信学会*)
「企業間でのマーケティングデータによる共創的価値創出に向けた課題分析」(2018年 人工知能学会*)
「Webコミュニケーションによる消費者⾏動の理解」(2017年 日本マーケティング・サイエンス学会*)
「企業の社会貢献に対する消費者の認知構造に関する研究 」(2006年 日本消費者行動研究学会*)

*共同研究者・共同研究機関との共著

レポートについてお問い合わせ
(取材・講演依頼)