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フィリピン経済:25年1-3月期の成長率は前年同期比5.4%増~中間選挙を控えた支出拡大で成長率上昇

2025年05月08日

(斉藤 誠) アジア経済

2025年1-3月期の実質GDP成長率は前年同期比5.4%増1となり前期の同5.3%から上昇したが、市場予想2(同5.7%増)を下回る結果だった(図表1)。

1-3月期の実質GDPを需要項目別に見ると、消費と投資が改善した。

まず民間消費は前年同期比5.3%増となり、前期の同4.7%増から上昇した。民間消費の内訳を見ると、保健(同9.8%増)や娯楽・文化(同9.7%増)、交通(同8.5%増)、教育(同7.2%増)が堅調に拡大した一方、民間消費全体の約4割を占める食料・飲料(同4.5%増)や衣服・履物(同4.3%増)、レストラン・ホテル(同6.0%増)が緩やかな伸びにとどまった。

政府消費は同18.7%増と、前期の同9.0%増から大きく上昇した。

総固定資本形成は同5.9%増(前期:同5.0%増)と上昇した。設備投資が同6.7%増(前期:同1.4%増)が加速する一方、建設投資が同6.8%増(前期:同7.7%増)と鈍化した。なお、設備投資の内訳を見ると、産業用機械(同16.9%増)が二桁成長だったほか、全体の約半分を占める輸送用機器(同3.9%増)がプラスの伸びに回復した。一方で一般工業機械(同3.3%減)は減少した。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が▲2.1%ポイントとなり、前期の▲0.1%ポイントからマイナス幅が拡大した。まず財・サービス輸出は同6.2%増(前期:同3.2%増)と上昇した。輸出の内訳を見ると、財貨輸出(同5.2%増)が3四半期ぶりに増加したが、サービス輸出(同7.2%増)は増勢が鈍化した。一方、財・サービス輸入は同9.9%増(前期:同2.7%増)と拡大した。
供給項目別に見ると、第一次産業の回復が成長率を押し上げた(図表2)。

第一次産業は前年同期比2.2%増(前期:同1.6%減)となり4四半期ぶりのプラス成長だった。サトウキビ(同19.0%増)やバナナ(同1.4%増)、コメ(同1.1%増)などの農作物、家禽(同9.4%増)、漁業・養殖業(同1.5%増)が増加した一方、林業(同2.4%減)と家畜(同2.3%減)が減少した。

第二次産業は同4.5%増となり、前期から横ばいで推移した。製造業は同4.1%増(前期:同3.3%増)と改善した。製造業の内訳をみると、食品加工(同10.0%増)は好調だったが、主力のコンピュータ・電子機器(同2.9%減)や化学製品(同9.2%減)、石油製品(同0.9%減)が低迷したほか、輸送用機器(同2.7%増)、非鉄金属(同1.5%増)が伸び悩んだ。また鉱業・採石業(同2.0%増)は2四半期ぶりに増加したが、建設業(同6.8%増)と電気・ガス・水道(同3.8%増)はそれぞれ鈍化した。

GDPの約6割を占める第三次産業は同6.3%増(前期:同6.7%増)と鈍化した。内訳をみると、全体の約2割を占める卸売・小売(同6.4%増)や運輸・倉庫業(同9.8%増)、金融・保険業(同7.2%増)、教育(同7.2%増)、宿泊・飲食業(同5.7%増)、情報・通信業(同5.6%増)は相対的に高めの伸びとなったが、専門・ビジネスサービス業(同5.0%増)や不動産業(同3.3%増)、行政・国防(同2.8%増)は緩やかな伸びにとどまった。
 
1 2025年5月8日、フィリピン統計庁(PSA)が2025年1-3月期の国内総生産(GDP)統計を公表した。
2 Bloomberg調査

1-3月期のGDPの評価と先行きのポイント

フィリピン経済は、2024年は年後半に台風被害の影響で景気が減速して通年の成長率が前年比+5.6%となり、政府目標の6.0%~6.5%に届かなかった。今回発表された2025年1-3月期は前年同期比+5.4%と、2四半期連続の成長加速となったが、市場予想(同+5.7%)を下回った。

1-3月期は、5月12日に実施される中間選挙を控えて選挙関連の支出が加速したことが成長率上昇に繋がった。民間消費(同+5.3%)は2四半期ぶりに5%台に上昇、政府消費(同+18.7%)は大きく増加した。また1-3月期の消費者物価上昇率が同+2.2%(前期:同+2.6%)と緩和したことや(図表3)、昨年の台風の襲来により冷え込んだ消費マインドが改善したことも消費の追い風となったとみられる。また投資も同+5.9%(前期:同+5.0%)と加速した。政府がインフラ開発を加速させたため建設投資(同+7.8%)は公共部門を中心に堅調な伸びを維持した(図表4)。

外需は、昨年台風の影響で打撃を受けた観光業の回復や情報通信サービスの好調によりサービス輸出(同+7.2%)が堅調に推移したほか、財貨輸出(同+5.2%)は主要輸出品である電子部品(同+6.7%)の出荷が4四半期ぶりにプラスに転じた。しかし、政府支出の加速により輸入(同+9.9%)の伸びが加速したため、純輸出の成長率寄与度は10-12月期の▲0.1%から1-3月期が▲2.1%に赤字幅が拡大した。

1-3月期は内需の堅調な拡大により成長率が上昇したが、中間選挙を控えた支出拡大や昨年の台風被害からの回復を踏まえると、景気回復は限定的だったようにみえる。今後はトランプ米政権の貿易政策による世界的な景気減速の影響がフィリピン経済に表れるようになるだろう。米国が提示したフィリピンに対する相互関税は17%と、ベトナム(46%)やタイ(36%)などと比べて低く、高い関税率を課された国の企業がフィリピンに拠点を移すことも想定し、米国の関税措置を前向きに受けとめる向きもあるが、関税措置によるサプライチェーンの混乱やコスト上昇は、内需頼みのフィリピン経済にとって大きな打撃となる。このため、フィリピン経済は政府支出の継続的な拡大と金融緩和策により景気の下支えを図るだろう。特にフィリピン中央銀行 (BSP) は今年4月に政策金利を0.25%引き下げて5.5%としたばかりだが、更なる追加利下げに前向きな姿勢を示している。またインフレが落ち着いており、通貨ペソも増価傾向にあり、追加緩和の余地が生まれている。6月19日の金融政策決定会合で追加の利下げの期待が高まっている。

経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠(さいとう まこと)

研究領域:経済

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴

【職歴】
 2008年 日本生命保険相互会社入社
 2012年 ニッセイ基礎研究所へ
 2014年 アジア新興国の経済調査を担当
 2018年8月より現職

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