NEW

グローバル株式市場動向(2025年10月)-米主要テック企業の好業績などから上昇が継続

2025年11月10日

(原田 哲志) 株式

1――米国の主要テック企業の好業績などから上昇が継続

2025年10月、世界の株式市場は上昇した。米国の主要テック企業の好業績や利下げ期待が株式市場を押し上げた。代表的な世界株指数(含む新興国)であるMSCI All Country World Index (MSCI ACWI)の騰落率1は2025年10月+2.2%、過去1年(2024年11月-2025年10月)では+20.9%となった(図表1)。

先進国と新興国を比べると、新興国が先進国を上回った。先進国(MSCI World Index)が+1.9%、新興国(MSCI Emerging Markets Index)が+4.1%となった(図表2)。
グロース・バリューでは、グロース指数(MSCI ACWI Growth Index)が+4.2%、バリュー指数(MSCI ACWI Value Index)が▲0.1%とグロース優位となった(図表3)。企業規模別では、大型株(MSCI ACWI Large Cap Index)が+2.5%、中型株(MSCI ACWI Mid Cap Index)が+0.2%、小型株(MSCI ACWI Small Cap Index)が+0.4%と大型株の騰落率が高かった(図表4)。
 
1 以下、特に断りのない限り騰落率は米ドル建、配当を除いた指数値の変化率を示す。

2――国・業種別の動向

2――国・業種別の動向

国別の動向はまちまちな結果となった(図表5)。主要国について見ると、米国(+2.3%)、中国(▲3.9%)、ドイツ(▲2.3%)、日本(+3.4%)となった。騰落率が高かった国・地域はアルゼンチン(+63.5%)、韓国(+22.3%)、台湾(+9.8%)だった。一方で、ノルウェー(▲4.9%)、ギリシャ(▲4.6%)、中国(▲3.9%)の騰落率が低かった。

米国はAMDとOpenAIの提携などを背景にAI・半導体関連銘柄を中心に上昇した。主要テック企業の好決算に加えて、FRBの利下げ期待、米中関係の緊張緩和が株式市場の上昇要因となった。

日本は、高市早苗氏の政権誕生による財政・金融緩和期待、円安による輸出企業の業績改善、AI・半導体関連銘柄への世界的な資金流入などを背景に上昇した。加えて、日本株の割安感から海外投資家の買いも上昇を加速させた。ただし、政策期待の行方や過熱感による反動リスクを懸念する声も出ている。

中国は国内経済の低迷や政策期待の剥落が重なったことで下落した。米国の追加関税方針の影響から輸出・ハイテク株が売られたことや、消費や不動産の停滞でデフレ懸念が強まったことが下落要因となった。

アルゼンチンでは議会選でミレイ大統領率いる与党が勝利し、改革継続への期待が高まった2。これにより株式市場は政治的安定と自由経済政策、国際支援への期待を織り込み大幅上昇となった。

ノルウェーでは大手資源企業トタルエナジーズがノルウェー沖の成熟油田を売却すると発表した3。これにより資源投資のピークアウトが懸念され資源株中心に売られたことから下落した。
業種別に見ると、半導体・半導体製造装置(+12.3%)、テクノロジー・ハードウェアおよび機器(+7.3%)、不動産(+4.7%)の騰落率が高かった。一方で、商業サービス・用品(▲7.0%)、消費者サービス(▲4.8%)、 保険(▲4.4%)の騰落率が低かった(図表6)。
 
2 ロイター、「アルゼンチン中間選挙、ミレイ大統領のLLAが勝利 改革継続に追い風」、2025年10月27日
3 Reuters," TotalEnergies to sell Norwegian oil assets to Vaar Energi in push to cut debt", October 1, 2025

3――世界の主要企業の株価動向

3――世界の主要企業の株価動向

世界の主要な企業の株価はまちまちな結果となった(図表7)。時価総額上位30社までの企業では、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(+53.0%)、 サムスン電子(+23.0%)、中国農業銀行(+16.5%)のリターンが高かった。一方で、メタ・プラットフォームズ(▲12.3%)、アリババグループ・ホールディングス(▲11.4%)、オラクル(▲10.6%)のリターンが低かった。

アドバンスト・マイクロ・デバイセズはOpenAIとのAIチップ供給契約を締結したことで急上昇した4。契約には長期供給や出資権も含まれ、AI・データセンター向けの成長期待が高まった。

メタ・プラットフォームズはAI関連投資拡大に伴い約250億ドル規模の巨額の債券発行計画を発表した5。これにより、市場は借入による過大投資への懸念を強め、将来の収益性や財務健全性に不安が広がったことから株価は下落した。
 
4 Bloomberg、「OpenAIとAMDがAIインフラ構築で大規模契約-AMD株は24%上昇」、2025年10月6日
5 日本経済新聞、「メタ株急落で時価総額30兆円減 起債4兆円、焦りのAI投資に市場警戒」、2025年10月31日

4――今後の見通しと注目されるテーマ

4――今後の見通しと注目されるテーマ

世界の株式市場は米国の主要テック企業の好業績や利下げ期待などから上昇した。こうした中、10月14日に国際通貨基金(IMF)は世界経済見通しを公表した6。IMFは世界経済の成長率について2025年は3.2%、2026年は3.1%と予測した。前回7月の予測から2025年は0.2%の上方修正、2026年は横ばいとなった。

IMFは、2025年予測の上方修正について、極端な高関税の一部がその後の協定と修正によって緩和されたとしている。ただし、今回の予測は2025年1月の米国の関税引き上げが世界経済に影響を与える前の予測7を依然として下回っていることや米国の関税導入前の貿易の前倒しといった一時的なプラス要因が薄れていると指摘した。

米国の主要テック企業の好業績や利下げ期待が株式市場を下支えする中、今後の世界経済の動向が注目される。また、近年ではAI・半導体関連企業の業績は拡大しているものの、急速な上昇に過熱感を懸念する声も出ている。主要テック企業各社はAI開発を競い、投資を続けているが将来的な収益の見通しは不透明だ。費用の増加や収益期待の低下はAI・半導体関連企業の株価下落につながるリスクとなる。こうした要因が世界の株式市場に与える影響を引き続き注視したい。
 
6 国際通貨基金、「変動期の世界経済、見通し依然暗く」、2025年10月14日
7 IMFは2025年1月時点では世界経済の成長率について2025年3.3%、2026年3.3%と予測した。

金融研究部   准主任研究員・サステナビリティ投資推進室兼任

原田 哲志(はらだ さとし)

研究領域:医療・介護・ヘルスケア

研究・専門分野
資産運用、人的資本、老後資金

経歴

【職歴】
2008年 大和証券SMBC(現大和証券)入社
     大和証券投資信託委託株式会社、株式会社大和ファンド・コンサルティングを経て
2019年 ニッセイ基礎研究所(現職)

【加入団体等】
 ・公益社団法人 日本証券アナリスト協会 検定会員
 ・修士(工学)

レポートについてお問い合わせ
(取材・講演依頼)