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若者消費の現在地(2)選択肢があふれる時代の「選ばない消費」~データで読み解く20代の消費行動

2025年09月29日

(久我 尚子) ライフデザイン

3――おすすめを参考にしている理由~目的と手段によって分かれる消費スタイル

ここまで、「どのジャンルでおすすめの影響を受けやすいか」「支出との関係」「属性ごとの違い」について見てきた。では、若者はなぜ「おすすめ」を参考にするのだろうか。

これまでも消費ジャンルごとの「影響を受けている」割合の違いから、その背景を考察してきたが、ここではさらに踏み込み、他人やサービスの影響を受けている消費ジャンルについて、ジャンルごとに「おすすめを参考にしている理由」をたずねたデータを用いて、コレスポンデンス分析を行った(図表3)。二次元で可視化することで、消費ジャンルごとに影響を受ける背景の違いを大局的に把握できる。なお、第1軸と第2軸の累積寄与率は46.5%であり、バブルの大きさは「おすすめの影響を受けている」と答えた割合を示している。
分析結果を見ると、「おすすめを参考にしている理由」のプロットの傾向から、横軸は「発見・探索的活用―負担軽減・効率的活用」、縦軸は「能動的活用―依存的活用」を示す様子が読み取れる。消費ジャンルと理由の対応から、いくつかの特徴的なグループが浮かび上がる。

第一に、右上の「負担軽減・効率的×能動的活用」には、住居・家具・インテリアや健康、外食・テイクアウト・デリバリーと「時間がない」「自分で選ぶのが面倒」「強いこだわりがない」といった理由が近接している。これらは生活基盤に関わる領域であるがゆえに選択の必要性は高い一方で、時間的制約や選択の負担感から、他者のおすすめを効率的に活用する姿勢が見て取れる。

第二に、右下の「負担軽減・効率的×依存的活用」には、家電・ガジェットや貯蓄・投資、美容と「基準がわからない」「失敗・後悔したくない」といった理由が近接している。バブルサイズからも分かるように、美容は外部情報の影響が大きい。これらは、いずれも専門的な知識や技術的な理解が求められる領域であり、失敗や理解不足を補うために他者やサービスの推奨に依存することで、選択の負担軽減と失敗回避を同時に実現しようとする心理が働いている。

第三に、左下の「発見・探索的×依存的活用」には、趣味やファッションと「視野拡大に活用」「トレンド知る手段」といった理由が近接している。これらは自己表現や個人的な楽しみに関わる領域であり、新しい情報やトレンドを知りたいという積極的な欲求がある一方で、自分だけでは情報収集や判断が追いつかないため、他者の知見に依存する傾向があると見られる。つまり、ここでの依存は受動的というより、探索目標を達成するための「戦略的な依存」と言える。

なお、その近くには、旅行やレジャーと「決めきれない」「みんなが選ぶなら安心」「信頼している人・サービス(だから)」といった理由が集まっている。これらは支出単価が比較的大きく、失敗した場合の損失(時間・費用・期待)も大きいことから、信頼できる他者やサービスに委ねて安心を得ようとする心理が働いていると見られる。ファッションや趣味と同様に楽しみや体験に直結する領域でありながら、より高額かつ非日常的な消費であるため、判断に迷う場面では他者の意思を参照する「同調的な依存」が強まりやすいと考えられる。

左上の「発見・探索的×能動的活用」には、中心寄りに日々の食事や交際費、旅行と「以前にうまくいった」「新しいものを探すのが苦手」といった理由が近接している。ここでは新規性を求めるというより、信頼できる他者やサービスから提供される実績のある選択肢を繰り返し取り入れる傾向が見られる。ゼロから探す負担を避けつつ、過去に成果のあった選択肢を能動的に活用する姿勢が見て取れる。

一方、同じ左上の象限にある推し活や自己啓発・スキルアップは、他の消費ジャンルと比べて「(明確な理由はないが、)なんとなく」という理由に近接している。これは、必ずしも効率や合理性ではなく、直感やその場の雰囲気に後押しされて選択している様子を示している。推し活では「なんとなく始めたことが長く続く」といった偶発的な要素もあり、自己啓発でも「気づいたときに取り入れてみる」といった自然なきっかけが重視されることもあるだろう。いずれも「自分の世界を広げたい」という探索志向のもとで、必ずしも計画的ではないが能動的に外部情報を活用する姿が表れている。

なお、分析の基データであるクロス集計表の結果を見ると(付表2)、どのジャンルにおいても「選択肢が多すぎて、決めきれないから」という理由が一定程度共通して見られる。つまり、選択肢が多い消費社会の中で外部情報を参照する姿勢は、若者に広く共有されたベーシックな感覚と言える。そのうえで、二次元マップに投影することで、そうした共通性の上に「効率的に活用する領域」「探索的に活用する領域」「能動的に活用する領域」「依存的に活用する領域」といったジャンルごとの対応戦略の違いが浮かび上がる。

この分析から明らかになるのは、若者の「選ばない消費」が目的と手段によって分類できるという点である。効率性を求める場合と発見を求める場合、能動的に活用する場合と依存的に頼る場合が、ジャンルの性質に応じて使い分けられている。

さらに、バブルサイズ(影響を受けている割合)との関係を見ると、美容やファッションなど下部に位置する領域では外部情報の影響度が大きく、依存的な姿勢が強い。一方で、日々の食事や健康といった右上の領域では影響度は中程度にとどまり、自己判断と外部情報を組み合わせる実用的なスタイルと見られる。ファッションや趣味では影響度自体は中程度だが、探索や自己表現の契機として他者の情報を取り込む特徴を持つ。さらに、旅行やレジャーのように支出単価が大きい領域では、失敗リスクを避けるため信頼できる他者の判断に同調する傾向が確認できる。

つまり、「おすすめ」の影響は単なる受け身ではなく、消費の目的や状況に応じて取り込まれる、多様で戦略的な選択行動の一部として機能している。

4――選ばない消費の考察

4――選ばない消費の考察~主体性と依存のあいだ

今回の分析から明らかになったのは、「選ばない消費」が必ずしも受動的な態度や思考停止を意味しないという点である。若者は、効率性や安心を得るために他者の判断に委ねる場面もあれば、新しい情報を取り込み自己表現や探索を広げるために能動的におすすめを活用する場面もある。つまり、「選ばない」という行動は、主体性の欠如ではなく、主体性と依存のあいだを行き来しながら状況に応じて最適化する柔軟なスタイルとして表れている。

一方で、調査結果では「まったく影響されていない」と答えた人の割合も少なくなかった。これは、外部の影響を本当に受けていないというよりも、「選択は自分でするもの」という規範意識や、人任せを避けたい心理が回答に反映している可能性がある。ただ、実際には、SNSや検索結果、アルゴリズムによるレコメンドなど、情報があふれる現代社会において他者の視点がまったく入り込まない選択は考えにくく、無自覚に「選ばされている」部分も少なくないだろう。

重要なのは、そうした環境の中で若者が消極的理由(選択肢が多すぎる、時間がない)と積極的理由(新しい発見、効率性の追求)の双方を踏まえ、外部情報を取捨選択しながら自分なりの判断基準を築いている点である。したがって、「選ばない消費」は意志の放棄ではなく、日常の中で培われた判断のしかたと情報環境との関わりの中で、自分らしい選び方を形づくっていくプロセスに近い。おすすめを活用することもまた、若者が自らの消費スタイルを築いていく一部であり、「選ばない」という行動は思った以上に主体的な選択なのかもしれない。

5――おわりに

5――おわりに~状況に応じた選択戦略を展開する若者たち

本稿では、都市部に住む20代を対象とした調査データを基に、若者の「選ばない消費」の実態を分析してきた。その結果、大量の情報に囲まれて生活しているがゆえに「受動的に流されやすい」と見られがちな若者の消費行動は、むしろ戦略的で柔軟であることが明らかになった。

まず、おすすめの影響度の分析では、美容・ファッション・旅行といった嗜好性の高い領域で外部情報を活用する一方、自己啓発・推し活・貯蓄投資では主体性を優先するなど、ジャンルの特性に応じた明確な使い分けが確認された。次に、「お金をかけるかどうか」と「誰が選ぶか」の関係を分析したところ、投資判断と選択判断は必ずしも連動せず、高額でも他者に委ねる場合や、小額でも価値観を重視して自ら選ぶ場合があるなど、複数の判断軸を柔軟に組み合わせている姿が浮かび上がった。さらに、コレスポンデンス分析では、おすすめを参考にする理由が「負担軽減・効率的活用」「発見・探索的活用」「能動的活用」「依存的活用」という4つのスタイルで整理され、共通基盤として「選択肢が多すぎて決めきれない」という現代の象徴的な背景があり、その上で多様な対応戦略が展開されていることも確認された。

これらの結果は、若者の「選ばない消費」が思考停止や依存の表れではなく、選択肢の過多という現代の消費環境に適応する実践的な行動であることを示している。若者は主体性と依存のあいだを行き来しながら、状況に応じて最適な選択スタイルを使い分けている。

こうした理解は、企業のマーケティングにおいても重要な示唆を持つ。若者は一律におすすめに流されるのではなく、ジャンルや状況に応じて戦略的に情報を活用している。したがって、画一的なアプローチではなく、文脈に応じた多様な接点やアプローチを組み合わせることが、より効果的となるだろう。

次回となる第3回では、この「選ばない消費」とは対照的な「自分で積極的に選びたい消費」に焦点を当てる。若者がどのような領域で強い主体性を発揮し、どのようなこだわりを持っているのかを分析することで、現代の若者の消費行動のさらなる実像に迫りたい。

生活研究部   上席研究員

久我 尚子(くが なおこ)

研究領域:暮らし

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴

プロフィール
【職歴】
 2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
 2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
 2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
 2021年7月より現職

・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

【加入団体等】
 日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
 生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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