分析結果を見ると、「おすすめを参考にしている理由」のプロットの傾向から、横軸は「発見・探索的活用―負担軽減・効率的活用」、縦軸は「能動的活用―依存的活用」を示す様子が読み取れる。消費ジャンルと理由の対応から、いくつかの特徴的なグループが浮かび上がる。
第一に、右上の「負担軽減・効率的×能動的活用」には、住居・家具・インテリアや健康、外食・テイクアウト・デリバリーと「時間がない」「自分で選ぶのが面倒」「強いこだわりがない」といった理由が近接している。これらは生活基盤に関わる領域であるがゆえに選択の必要性は高い一方で、時間的制約や選択の負担感から、他者のおすすめを効率的に活用する姿勢が見て取れる。
第二に、右下の「負担軽減・効率的×依存的活用」には、家電・ガジェットや貯蓄・投資、美容と「基準がわからない」「失敗・後悔したくない」といった理由が近接している。バブルサイズからも分かるように、美容は外部情報の影響が大きい。これらは、いずれも専門的な知識や技術的な理解が求められる領域であり、失敗や理解不足を補うために他者やサービスの推奨に依存することで、選択の負担軽減と失敗回避を同時に実現しようとする心理が働いている。
第三に、左下の「発見・探索的×依存的活用」には、趣味やファッションと「視野拡大に活用」「トレンド知る手段」といった理由が近接している。これらは自己表現や個人的な楽しみに関わる領域であり、新しい情報やトレンドを知りたいという積極的な欲求がある一方で、自分だけでは情報収集や判断が追いつかないため、他者の知見に依存する傾向があると見られる。つまり、ここでの依存は受動的というより、探索目標を達成するための「戦略的な依存」と言える。
なお、その近くには、旅行やレジャーと「決めきれない」「みんなが選ぶなら安心」「信頼している人・サービス(だから)」といった理由が集まっている。これらは支出単価が比較的大きく、失敗した場合の損失(時間・費用・期待)も大きいことから、信頼できる他者やサービスに委ねて安心を得ようとする心理が働いていると見られる。ファッションや趣味と同様に楽しみや体験に直結する領域でありながら、より高額かつ非日常的な消費であるため、判断に迷う場面では他者の意思を参照する「同調的な依存」が強まりやすいと考えられる。
左上の「発見・探索的×能動的活用」には、中心寄りに日々の食事や交際費、旅行と「以前にうまくいった」「新しいものを探すのが苦手」といった理由が近接している。ここでは新規性を求めるというより、信頼できる他者やサービスから提供される実績のある選択肢を繰り返し取り入れる傾向が見られる。ゼロから探す負担を避けつつ、過去に成果のあった選択肢を能動的に活用する姿勢が見て取れる。
一方、同じ左上の象限にある推し活や自己啓発・スキルアップは、他の消費ジャンルと比べて「(明確な理由はないが、)なんとなく」という理由に近接している。これは、必ずしも効率や合理性ではなく、直感やその場の雰囲気に後押しされて選択している様子を示している。推し活では「なんとなく始めたことが長く続く」といった偶発的な要素もあり、自己啓発でも「気づいたときに取り入れてみる」といった自然なきっかけが重視されることもあるだろう。いずれも「自分の世界を広げたい」という探索志向のもとで、必ずしも計画的ではないが能動的に外部情報を活用する姿が表れている。
なお、分析の基データであるクロス集計表の結果を見ると(付表2)、どのジャンルにおいても「選択肢が多すぎて、決めきれないから」という理由が一定程度共通して見られる。つまり、選択肢が多い消費社会の中で外部情報を参照する姿勢は、若者に広く共有されたベーシックな感覚と言える。そのうえで、二次元マップに投影することで、そうした共通性の上に「効率的に活用する領域」「探索的に活用する領域」「能動的に活用する領域」「依存的に活用する領域」といったジャンルごとの対応戦略の違いが浮かび上がる。
この分析から明らかになるのは、若者の「選ばない消費」が目的と手段によって分類できるという点である。効率性を求める場合と発見を求める場合、能動的に活用する場合と依存的に頼る場合が、ジャンルの性質に応じて使い分けられている。
さらに、バブルサイズ(影響を受けている割合)との関係を見ると、美容やファッションなど下部に位置する領域では外部情報の影響度が大きく、依存的な姿勢が強い。一方で、日々の食事や健康といった右上の領域では影響度は中程度にとどまり、自己判断と外部情報を組み合わせる実用的なスタイルと見られる。ファッションや趣味では影響度自体は中程度だが、探索や自己表現の契機として他者の情報を取り込む特徴を持つ。さらに、旅行やレジャーのように支出単価が大きい領域では、失敗リスクを避けるため信頼できる他者の判断に同調する傾向が確認できる。
つまり、「おすすめ」の影響は単なる受け身ではなく、消費の目的や状況に応じて取り込まれる、多様で戦略的な選択行動の一部として機能している。
4――選ばない消費の考察