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家計消費の動向(二人以上世帯:~2025年7月)-実質賃金改善下でも「メリハリ消費」継続、娯楽支出は堅調を維持

2025年09月17日

(久我 尚子) ライフデザイン

4――おわりに~実質賃金改善下でも「メリハリ消費」は継続、慎重さの中にある選択的な回復に注目

本稿では、総務省「家計調査」を用いて、2025年7月までの二人以上世帯の消費動向を分析した。その結果、2025年7月に実質賃金がプラスに転じたものの、物価高によって培われた消費者の慎重な行動パターンは継続しており、食料や日用品などの生活必需品に対する支出を抑える一方で、娯楽に対しては一定の支出を維持する「メリハリ消費」の動きが確認された。

分野別に見ると、交通では公共交通機関の利用が減少する一方で、レンタカーやカーシェアリングは堅調に推移しており、自由度の高い移動手段を選好する志向の変化が表れている。食事分野では、米という基本的な主食でさえも価格上昇により買い控えが生じる一方で、冷凍調理食品や出前などの利便性重視の食品・サービスは堅調を維持している。この対比は、消費者が価格と利便性の両面で厳しく選択を行っていることを示している。

デジタルコンテンツへの支出も堅調であり、無料や低価格の代替手段が豊富にある中でも一定の対価を支払って楽しむ行動が根付いている。これは、コストパフォーマンスの高い娯楽として、物価高の中でも優先順位の高い支出となっていることを示している。旅行・レジャー分野では、円安による割高感から海外旅行が一時的に抑制されたが、消費者の円安への慣れや順応を背景にパック旅行費には改善の兆しが見られる。ただし、為替変動の影響を受けやすく、一時的な調整も避けられない。

さらに、働き方の変化も消費に影響を与えている。男性用スーツの需要は減少が続く一方で、女性用洋服やメイクアップ用品は相対的に堅調を維持している。

総じて、実質賃金が改善に転じたとはいえ、消費者の行動には長年のデフレや近年の物価高によって根づいた「節約を前提とした暮らし方」が色濃く反映されている。成熟した消費社会では、すでに安価で高品質な商品やサービスが多く流通しており、購買力の回復が直ちに全般的な消費拡大につながるとは限らない。

それでも、実質賃金の改善が持続すれば、特に娯楽や利便性の高いサービスなど「メリハリ消費」において優先順位の高い分野を中心に、消費全体が少しずつ前向きな方向に動き出すことが期待される。今後は、消費者の慎重さの中にある価値観に基づく選択的な消費回復の動きが注目される。

生活研究部   上席研究員

久我 尚子(くが なおこ)

研究領域:暮らし

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴

プロフィール
【職歴】
 2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
 2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
 2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
 2021年7月より現職

・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

【加入団体等】
 日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
 生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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