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金(Gold)の強気相場は続くか~3600ドル到達後のNY金見通し

2025年09月05日

(上野 剛志) 金融市場・外国為替(通貨・相場)

2.日銀金融政策(8月)

(日銀)現状維持(開催なし)
8月はもともと金融政策決定会合(MPM)が予定されていない月であったため会合は開催されず、金融政策は現状維持となった。次回会合は、今月18~19日に開催される予定となっている。
 
なお、8月8日には7月末に開催された前回MPMにおける「主な意見」が公表された。

日米間の関税合意については、「大変大きな前進であり、日本経済にとって不確実性の低下につながる。前回の展望レポートのメインシナリオを書き換えるものではないが、これが実現する確度は高まった」と前向きな評価があった一方で、「これまで発生してきた駆け込み輸出の影響が今後剥落し、さらに関税の負の影響が出てくる局面に入りつつあることに注意が必要である」と慎重な見方もあった。物価に関しては、物価の上振れリスクへの言及が目立った。

今後の金融政策運営については、「通商政策やその影響を巡る不透明性は引き続き大きい。今は、現在の金利水準で緩和的な金融環境を維持し、経済をしっかりと支えるべきである」、「もう少しデータを得たうえで政策判断すべきである」などと慎重に様子見することを主張する声があった一方、「早ければ年内にも現状の様子見モードが解除できるかもしれない」、「過度に慎重になって、利上げのタイミングを逸することにならないよう、留意する必要もある」、「急速な利上げは日本経済に大きなダメージを与えるため、適時に利上げを進めることが、リスク・マネジメント上、重要である」などと比較的早期の利上げに前向きと見られる意見も多く見受けられた。

総じてみれば、ハト派色が目立った同MPM後の植田総裁会見と比べて、タカ派的な印象を受けた。
 
また、8月23日には、植田総裁がジャクソンホールにて「人口減少下における日本の労働市場」と題した講演を行った。

中長期的・構造的な内容が中心であり、当面の金融政策運営に関する示唆は乏しかったものの、総裁は「先行きを展望すると、大きな負の需要ショックが生じない限り、労働市場は引き締まった状況が続き、賃金には上昇圧力がかかり続けると見込まれる」と発言し、持続的な賃金上昇に対する前向きな見解を示した。
 
さらに、9月2日には、氷見野副総裁が北海道釧路市で講演を行った。

副総裁は関税について、植田総裁同様、「日米間の交渉が合意に至ったことは大きな前進であり、日本経済にとって先行きの不確実性の低下につながる」と前向きに評価した。一方で、関税の影響がこれまでのところ思ったほどには顕在化していないことについては、「影響が出るまでに時間がかかっているだけであり、影響はこれから及んでくる、というのが基本的な見方だろう」と述べ、「メイン・シナリオとしては、各国の通商政策の影響はいずれ顕在化し、海外経済が減速、わが国の企業の収益も下押しされるだろう」、「その場合、(中略)日本経済の成長ペースは鈍化するものと考えられる」、「影響が思ったより小さくなる可能性も、大きくなる可能性も、両方考えられるところで、当面は大きくなる可能性の方により注意が必要ではないか」と今後も慎重なスタンスで臨む姿勢を示した。

そのうえで、今後の金融政策運営については、「これまで説明したような(経済は一旦鈍化後に回復、基調的な物価上昇率はいずれ2%に向かうという)経済・物価のメイン・シナリオが実現していくとすれば、経済・物価情勢の改善に応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことが適切だろう」としつつ、「メイン・シナリオが本当に実現していくかどうかについては、予断を持たずにみていきたい」と述べた。
(今後の予想)
筆者としては、日銀が次回の利上げに踏み切るための主な条件は、(1)トランプ関税の影響がある程度判明すること、そのうえで、(2)賃金と物価の好循環が継続して物価目標達成の確度が高まったと言えること、の2点と考えている。
 
そうしたなか、前回7月のMPMでは、日米の関税合意を受けて、日銀全体としては利上げに対してやや前向きに傾いた印象を受けたが、植田総裁や氷見野副総裁の発言からは、執行部としてはある程度時間をかけてしっかりと見定めたいとの意向を持っているように感じられる。
 
従って、筆者の中心的な予想としては、今後トランプ関税の行方と影響の見極めにしばらく時間を取った後、今年12月に0.75%へ利上げに踏み切ると見込んでいる。この時期になれば、(1)トランプ関税の悪影響が甚大なものとはならず、企業の中間決算や冬の賞与が大崩れしていないこと、(2)今春闘での高い賃上げがサービス等の価格に一定程度転嫁されたこと、(3)来春闘に向けて賃上げ機運が大きく損なわれていないこと、の確認が可能になると考えられるためだ。

ただし、リスクシナリオとして、関税の内外経済への悪影響が想定よりも大きくなった場合には、影響が緩和したと判明するまでは利上げに動けなくなりそうだ。また、日本の政局が不安定化したり、政権が交代したりする場合にも、日銀は影響見極めのため利上げをしばらく見合わせる可能性がある。逆に、関税の影響が限定されるなかで食品価格の上昇率が高止まりし、基調的な物価上昇率への波及が懸念される状況となったり、円安が急速に進む事態になったりすれば、10月への利上げ前倒しもあり得る。

外部環境が不安定なため、次回の利上げ時期は「12月が中心」と見つつも、最速で10月、遅い場合は来年春まで幅を持って構えておきたい。

3.金融市場(8月)の振り返りと予測表

3.金融市場(8月)の振り返りと予測表

(10年国債利回り)
8月の動き(↗) 月初1.5%台半ばでスタートし、月末は1.6%付近に。
月初、米雇用統計の大幅な下振れに伴う米金利低下を受けて、5日に1.4%台後半に低下。しばらく1.5%付近での膠着した推移になった後、(1)米物価関連指標の上振れ、(2)日本GDPの上振れを受けた日銀利上げ観測の高まり、(3)拡張的な財政政策への警戒が燻るなかでの国債入札・日銀国債買入れ結果を受けた需給の緩みへの警戒などから上昇が続き、20日には約17年ぶりの高水準となる1.6%台前半に到達した。その後もジャクソンホール会合での植田総裁講演を受けた利上げへの思惑や、米政権によるクックFRB理事解任に伴う米長期金利上昇などを受けて、月末にかけて高水準での推移が続いた。
(ドル円レート)
8月の動き(↘) 月初150円台後半でスタートし、月末は146円台後半に。
月初、米雇用統計の大幅な下振れや、クグラーFRB理事の退任(ハト派の後任指名観測)を受けて円高が進み、5日に146円台後半に。その後は持ち高調整や株高に伴うリスク選好の動きによって円売りが入り、12日には148円台半ばへ戻した。中旬以降は米経済・物価指標の上振れと米利下げ観測が交錯する形で147円台を中心とする一進一退の推移に。22日のジャクソンホールでパウエルFRB議長が雇用の下振れリスクの高まりを認めたことでドル売りが強まる場面もあったが、勢いは続かず、月末にかけて方向感のない推移が継続した。
(ユーロドルレート)
8月の動き(↗) 月初1.14ドル近辺でスタートし、月末は1.16ドル台半ばに。
月初、米雇用統計の下振れを受けて、4日に1.15ドル台後半に上昇。その後もFRB高官発言を受けた米利下げ観測やトランプ大統領による新FRB理事へのミラン氏指名、予想内に留まった米CPIなどを材料にドルが売られ、13日には1.17ドル台前半に達した。中旬以降は、持ち高調整のユーロ売りや堅調な米経済指標の発表などを受けてユーロの上値が重くなり、1.16ドル台での推移が継続。月の終盤にはフランスの政局・財政不安がユーロ安圧力となり、27日には1.15ドル台後半に落ち込んだが、月末にはやや持ち直し、1.16ドル台半ばで終了した。

経済研究部   主席エコノミスト

上野 剛志(うえの つよし)

研究領域:金融・為替

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴

・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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