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増え行く単身世帯と消費市場への影響(3)-食生活と住生活の特徴

2025年08月28日

(久我 尚子) ライフデザイン

2単身世帯の住生活~若年は賃貸9割超、年代とともに持ち家率が上昇
次に、勤労者世帯で消費支出に占める割合が「食料」に次いで高い「住居」について確認する。前稿で見た通り、単身世帯では若い世代ほど「住居」費の比重が高く、男性では若年21.4%、壮年13.1%、高齢10.3%、女性では若年24.1%、壮年14.5%、高齢9.3%となっている。

「住居」の内訳を見ると、特に若年単身男女では賃貸住宅での暮らしが圧倒的に多い。「家賃・地代」の割合は、二人以上世帯の60.5%に対し、単身世帯では若年男女では9割超(男性98.1%、女性98.9%)、壮年男性でも93.9%に上る(図表4)。持ち家率を比較すると、二人以上世帯の82.5%に対し、若年単身男女は約1割(男性11.5%、女性8.2%)、壮年男女でも約半数(男性46.8%、女性51.7%)にとどまる。一方、高齢単身世帯では持ち家率は8割前後に上り、特に高齢女性では86.8%と高い。住居費の内訳も変化し、高齢単身世帯では「家賃・地代」の割合が低下する代わりに「設備修繕・維持」の割合が男性43.6%、女性67.7%へと高まる。

なお、二人以上勤労者世帯全体の持ち家率は、年齢とともに上昇する傾向がある。世帯主の年齢が29歳未満39.9%、30歳代70.2%、40歳代83.6%、50歳代85.3%、60歳代91.1%、70歳以上87.7%となっており、単身世帯と比較して同年代でも大幅に高い水準にある。

若年・壮年単身世帯で持ち家率が低い背景には、住宅購入が結婚や家族形成のタイミングで検討されやすいこと、一人では住宅ローンの負担が重くなりやすいこと、さらには将来の転居や介護への備えとして流動性を重視することなどがあげられる。特に若年・壮年層では、キャリア形成や転職に伴う地域移動の可能性も高く、賃貸住宅の柔軟性が選好されていると考えられる。
なお、5年前と比べても大きな構造変化は見られないが(図表略)、若年単身女性では他層と比べて「家賃・地代」の増加が目立つ(2019年33,112円、2024年50,656円で対2019年実質増減率50.4%)。この背景には、若年単身女性では可処分所得が増加傾向にあることがあげられるが、2023年の「家賃・地代」は34,918円であったことを鑑みると、2024年の値は一時的に上振れている可能性もあり、2025年以降もあわせて分析する必要がある。

3――おわりに

3――おわりに~多様な単身世帯の消費、社会変化の先行指標としても重要

本稿では、単身世帯の消費について食生活と住生活を中心に分析した。食生活では、二人以上世帯と比較して「外食」や「調理食品」志向が高く、基本食材への支出割合が低いことが特徴的であった。特に若年単身男性では食費の約7割が外食・調理食品に充てられており、利便性重視の姿勢が際立っていた。一方、高齢層では外食が大きく減り、代わりに「魚介類」や「野菜・海藻」などへの支出が増えるなど、自炊中心の食生活が見られた。

性別で比較すると、男性は外食の割合が高く、女性は相対的に基本食材への支出割合が高い傾向にあった。ただし、若年女性でも食費の6割は外食・調理食品であり(壮年女性は4割強)、社会進出に伴う時短ニーズ、消費環境の利便性向上といった要因が背景にあると考えられる。さらに、5年前と比較すると、物価高によって外食支出が減少する一方で、調理食品や基本食材の支出が増加し、効率性と経済性を両立させた食生活への適応が進んでいた。

住生活では、二人以上世帯の持ち家率が8割超に達するのに対し、単身世帯では若年層で1割前後にとどまり、賃貸住宅志向が際立っていた。単身世帯でも年齢とともに持ち家率は上昇するものの、同年代の二人以上世帯と比べれば低水準にある。背景には、結婚や家族形成に合わせた住宅取得の傾向、一人での住宅ローン負担の難しさ、転居や介護への備えとして流動性を重視する姿勢がある。特に若年・壮年層では、キャリア形成や転職に伴う地域移動の可能性から賃貸住宅の柔軟性が選好されている。さらに、高齢女性で持ち家率が高いことや、住居費の内訳が男性は家賃、女性は修繕維持費の割合が高いなど、性別による違いも確認された。また、若年単身女性では、可処分所得の増加を背景に住居費が増加していた。

以上の結果は、単身世帯の消費行動が一様ではなく、性別や年代によって異なる多層的な構造を持つことを示している。また、二人以上世帯と比較すると、単身世帯は物価高や社会変化の影響をより敏感に受けやすい点も特徴的である。実際、物価上昇を背景とした外食から中食・内食へのシフトは、単身世帯で特に顕著に現れており、単身世帯が社会変化や経済環境の影響を先行的に映し出す存在とも言える。

前稿で指摘した単身世帯の「二面性」、すなわち、可処分所得が増える層と減少する層が併存し、その格差が消費行動の多様化を生んでいる点は、本稿でも具体的な消費行動において垣間見えた。経済力を背景に新たな市場を形成しつつある若年女性層や、高齢単身世帯における調理食品需要の拡大は、今後の消費市場の可能性を広げる。一方で、物価高や所得減少に直面しやすい層も存在しており、脆弱性への目配りも欠かせない。

今後、単身世帯が全世帯の4割を超える社会では、こうした多様性を理解した政策立案や商品・サービス開発が一層重要になる。政策面では、単身世帯を一括りにせず、若年層の所得増加に伴う新たな需要、高齢層の健康志向、女性単身世帯の増加といった層別の特徴を踏まえた対応が必要である。たとえば、高齢単身層には宅食・健康サービスの拡充や住宅改修支援、若年単身層には賃貸住宅の安定供給や住環境改善といった施策が考えられる。市場面でも、外食・中食産業や都市部の賃貸住宅市場など、単身世帯の動向に大きく左右される分野では、年齢や性別、所得水準に応じたきめ細かなアプローチが求められる。

単身世帯の消費実態を丁寧に把握し続けることは、消費市場の将来像を描き、持続可能な社会の形成につなげていくうえで不可欠である。次稿では教養娯楽をはじめとする他の消費生活について分析を進めていく。

生活研究部   上席研究員

久我 尚子(くが なおこ)

研究領域:暮らし

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴

プロフィール
【職歴】
 2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
 2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
 2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
 2021年7月より現職

・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

【加入団体等】
 日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
 生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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