歴史的には国防費の拡大局面で、民生から国防に予算配分が変更されたケースは限られており、財源は主に増税と借入の増加で確保されてきた。これがMarzipan and Trebesch の150年にわたる22カ国のデータ分析の結果である
1。冷戦後の「平和の配当」が、社会保障や公共サービスの強化よりも、減税や財政赤字の削減に充てられたことから、国防費の財源は法人増税等で賄うべきとの主張もある
2。
欧州の国防費の増額の財源は、借入の増加と限定的な増税と歳出削減の組み合わせとなりそうだ。ドイツは均衡財政を義務付ける「債務ブレーキ」を見直し、欧州連合(EU)は「欧州再軍備計画」の一環として、時限的・限定的に財政ルールからの逸脱を認める。EUが債券を発行し、加盟国などに融資する防衛技術産業基盤強化のための緊急かつ大規模な投資支援の最大1500億ユーロの枠組みも立ち上げる。
借り入れを財源とする国防費の増加は、安全保障面でのニーズからは正当化されても、財政の持続可能性への懸念を引き起こすリスクはある。資金調達コストの上昇は借入を抑制し、増税や歳出の見直しを迫る圧力となる。
昨年14年ぶりに政権が交代した英国は、すでに難しい選択を迫られている。英国の長期金利は主要7カ国(G7)で最も高く、30年を超える超長期金利の上昇という最近のトレンドの影響を受けやすい債務構造でもある。リーブス財務相は、就任後、財政規律を尊重しつつ、借入も活用しながら、成長戦略の推進と公共サービスの強化に取り組む方針を示したが、経済・財政見通しは想定を下回る一方、国防費の増加は前倒しが必要になった。こうした背景から、増税の範囲は、すでにマニフェストに盛り込んだNon-Dom(英国非永住者)への課税免除制度廃止などに加えて、キャピタルゲイン課税、相続税、国民保険料雇用主負担分引き上げなどへと広がっている。福祉の削減も計画されたが、与党・労働党内の反対で骨抜きになり、財源確保は、増税、特に大企業や富裕層をターゲットとする増税に傾きやすくなっている。
対象を絞った増税は、購買力の低下と所得格差に不満を抱く有権者の理解を得やすい反面、競争力の源泉となってきた企業や専門人材の流出を招き、却って税収基盤を細らせる可能性がある。
国防費を引き上げる過程での福祉削減は必然ではないが、借り入れや増税の選択は財政事情と市場の評価、政治、経済状況に左右され、相互に影響を及ぼし合う。英国以外の国々も手探りでの前進となるだろう。
1 "How to Finance Europe’s Military Buildup? Lessons from History" KIEL POLICY BRIEF No.184, February 2025
2 "Europe does not have to choose between guns and butter. There is another way" ̶ The Guardian / 7 July 2025