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増え行く単身世帯と消費市場への影響(2)-家計収支から見る多様性と脆弱性

2025年08月21日

(久我 尚子) ライフデザイン

■要旨
 
  • 本稿では、総務省「家計調査」を用いて、単身世帯の家計収支や消費構造について分析した。可処分所得は、物価上昇により全体的に実質的には減少傾向にあるが、若年女性では2000年に対して2024年では実質13.0%増加し、男女差は4.6万円から3千円まで縮小した。一方、壮年女性では雇用の不安定さからコロナ禍の影響を比較的強く受け、2019年から2020年にかけて唯一減少する(名目値)など脆弱性が顕在化した。
     
  • 消費支出は2020年を底に回復傾向にあるが、可処分所得の増加ほどには伸びておらず、2000年以降の長期的推移で消費性向の低下が確認された。特に若年男性と壮年女性では2024年でも2020年の消費支出額を下回るなど回復の遅れがみられる。
     
  • 消費構造では、単身世帯は二人以上世帯と比べて「住居」「その他の消費支出」「教養娯楽」の割合が高く、「教育」「交通・通信」が低い傾向がある。年齢や性別によって消費パターンが異なり、若年女性の住居費重視や高齢者の光熱・水道費の高さ、女性の交際費の高さなど、それぞれのライフステージや価値観を反映した特徴が確認された。
     
  • 分析からは、単身世帯の持つ二面性が浮かび上がった。若年女性に代表される経済力の向上により新たな消費市場の牽引役となる可能性を秘めた層がある一方で、壮年女性のように雇用の不安定さから経済的脆弱性を抱え、将来の貧困リスクにも直面しかねない層も存在する。政策面では両層それぞれへの対応が、消費市場では多様な特性に応じた商品・サービス開発が重要となる。


■目次

1――はじめに~家計消費は2025年頃をピークに減少、2050年には約15%減少の見通し
2――単身世帯の家計収支
  1|可処分所得
   ~物価上昇によりにより実質減少も、若年女性は就労環境改善で増加、壮年女性に脆弱性
  2|消費支出
   ~2020年を底に反転するも、若年男性と壮年女性は回復遅れ
3――単身世帯の消費内訳~「住居」・「教養娯楽」が多く、「教育」・「交通・通信」が少ない
4――おわりに~多様化する単身世帯、脆弱性への配慮と新たな消費力への期待

生活研究部   上席研究員

久我 尚子(くが なおこ)

研究領域:暮らし

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴

プロフィール
【職歴】
 2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
 2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
 2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
 2021年7月より現職

・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

【加入団体等】
 日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
 生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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