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マレーシア経済:25年4-6月期の成長率は前年同期比+4.4%~堅調な内需に支えられて横ばいの成長に

2025年08月15日

(斉藤 誠) アジア経済

2025年4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比4.4%増1(前期:同4.4%増)の横ばいとなり、市場予想2(同4.5%増)を下回ったが、7月にマレーシア統計局が発表した暫定値(同4.4%)と一致した(図表1)。

4-6月期の実質GDPを需要項目別に見ると、消費と投資が改善した一方、輸出が鈍化した。

民間消費は前年同期比5.3%増となり、前期の同5.0%増から上昇した。費目別に見ると、レストラン・ホテル(同14.3%増)の大幅な増加が続いたほか、輸送(同9.4%増)や通信(同8.6%増)、衣類・靴(同7.5%増)が堅調に拡大した。一方、住宅・水道・電気・燃料(同1.5%増)や保健衛生(同2.4%増)、食料・飲料(同4.2%増)、家具、備品、メンテナンス(同4.3%増)、娯楽・文化(同4.9%増)が相対的に緩やかな増加にとどまった。

政府消費は前年同期比6.4%増(前期:同4.3%増)と上昇した。

総固定資本形成は同12.1%増(前期:同9.7%増)と上昇した。建設投資が同10.5%増(前期:同13.4%増)、設備投資が同16.6%増(前期:同5.4%増)と、それぞれ二桁成長となった。なお、投資を公共部門と民間部門に分けてみると、全体の4分の3を占める民間部門が同11.8%増(前期:同9.2%増)、公共部門が同13.6%増(前期:同11.6%増)となり、それぞれ上昇した。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が▲2.6%ポイントとなり、前期の+0.8%ポイントから悪化した。まず財・サービス輸出は同2.6%増(前期:同4.1%増)と低下した。輸出の内訳を見ると、財貨輸出(同1.4%増)と鈍化し、サービス輸出(同8.0%増)は堅調に拡大した。また財・サービス輸入は同6.6%増(前期:同3.1%増)と上昇して輸出を上回る伸びとなった。
供給側を見ると、主に第一次産業の回復が第二次産業の鈍化を相殺する形となった(図表2)。

まずGDPの6割弱を占める第三次産業は前年同期比5.1%増(前期:同5.0%増)と小幅に上昇した。宿泊業(同14.5%増)をはじめとして食料・飲料(同9.0%増)や運輸・倉庫(同8.6%増)、不動産・ビジネスサービス(同8.6%増)、政府サービス(同6.4%増)が堅調に推移した。一方、金融・保険(同1.4%増)、情報・通信(同3.5%増)、卸売・小売(同4.3%増)は相対的に低い伸びとなった。

第二次産業は前年同期比2.1%増(前期:同3.5%増)と低下した。まず製造業は同3.7%増(前期:同4.1%増)と低下した。内訳を見ると、輸送用機器(同3.1%減)と石油製品(同3.3%減)が低迷したほか、化学製品(同1.1%増)、金属製品(同3.6%増)が伸び悩んだ。一方で主力の電子機器(同8.2%増)や動植物性油脂(同15.3%増)、食品加工(同10.0%増)は好調だった。また鉱業は同5.2%減(前期:同2.7%減)と低迷した。天然ガス(同8.1%減)と原油(同1.6%減)がそれぞれ減少した。建設業については同12.1%増(前期:同14.2%増)と高成長を維持した。

第一次産業は同2.1%増(前期:同0.7%増)と上昇した。パーム油(同5.3%増)が大きく改善した一方、その他農作物(同2.0%増)、畜産(同1.5%増)が鈍化、漁業・養殖業(同2.1%減)が減少した。
 
1 2025年8月15日、マレーシア中央銀行が2025年4-6月期の国内総生産(GDP)を公表した。
2 Bloomberg調査

4-6月期GDPの評価と先行きのポイント

今回発表された2025年4-6月期の成長率は前年同期比+4.4%と、1-3月期から横ばいだった。2024年通年の成長率(前年比+5.1%)と比べると減速感はあるが、順調な成長ペースを維持しているといえる。

4-6月期は内需が改善した一方、外需が悪化した。内需については、まず総固定資本形成(同+12.1%)が二桁成長に加速した。新規および既存プロジェクトの実行により民間投資(同+11.8%)と公共投資(同+13.6%)は力強い伸びとなった。またGDPの6割を占める民間消費(同+5.3%)は堅調に推移した。6月の失業率が約10年ぶりの最低水準(3.0%)まで低下するなど労働市場が改善(図表3)、また最低賃金や公務員給与の引上げなどの所得関連政策や低インフレ環境も追い風となり、家計の購買力が向上している。

一方、外需については、財・サービス輸出が同+2.6%となり、1-3月期の同+4.1%増から鈍化した。米国の追加関税を控えた駆け込み需要の増加により電気・電子機器の出荷が伸びており(図表4)、またインバウンド需要の回復も続いたが、主にコモディティ関連の出荷が低迷したため、財・サービス輸出(同+1.4%)は鈍化した。一方、財・サービス輸入(同+6.6%)は活発な投資活動を反映して資本財を中心に増加しており、純輸出の成長率寄与度(▲2.6%ポイント)はマイナスとなった。
8月7日に発動した米国の追加関税はマレーシア製品に対して19%の輸入関税が課されることとなった。4月に発動した10%のベースライン関税から更に9%の上乗せとなったが、周辺国と同水準でありマレーシアにとって許容可能な水準だった。

マレーシアの対米輸出の約3分の1を占める半導体は、相互関税の対象外とされるが、トランプ米大統領は今月6日に半導体の輸入に100%の関税を課すと発言した。マレーシアから米国に輸出される半導体の多くは米国企業の生産拠点で製造されたものであり、半導体別関税の影響を免れる可能性があるが、実際に半導体関税が適用された場合のマレーシア経済への影響は甚大なものになる。米国の関税措置によって輸出の先行きが左右される不透明な状況が続いている。

今後については駆け込み輸出の反動や米国による追加関税の影響が現れることによって輸出の落ち込みが懸念されるが、半導体輸出の継続とインバウンド需要が下支えとなるため、外需の大幅な落ち込みは避けられるだろう。

米国の不透明な通商政策など外部環境の悪化から国内経済の減速が懸念される中、マレーシア中銀は7月の会合で、景気減速の予防的措置として金融緩和を実施し、政策金利を0.25%引き下げて2.75%にすると決めた。これまでのところマレーシア経済は堅調な国内需要に支えられているが、足元の消費動向は減速傾向もみられるだけに、9月の会合では追加利下げの可能性もありそうだ。

経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠(さいとう まこと)

研究領域:経済

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴

【職歴】
 2008年 日本生命保険相互会社入社
 2012年 ニッセイ基礎研究所へ
 2014年 アジア新興国の経済調査を担当
 2018年8月より現職

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