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景気ウォッチャー調査2025年7月~日米関税合意で警戒感和らぎ、景況感は現状、先行きともに改善~

2025年08月12日

(佐藤 雅之) 日本経済

1.景気の現状判断DI(季節調整値)は前月差0.2ポイント上昇の45.2

内閣府が8月8日に公表した景気ウォッチャー調査によると、25年7月の景気の現状判断DI(季節調整値)は前月差0.2ポイント上昇の45.2となった。

地域別では、全国12地域中、7地域で上昇、4地域で低下、1地域で横ばいであった。最も上昇幅が大きかったのは東北(前月差4.3ポイント)で、最も低下幅が大きかったのは近畿(同▲2.7ポイント)であった。

現状判断DI(季節調整値)の内訳をみると、家計動向関連が前月差0.4ポイント、企業動向関連が同▲0.1ポイント、雇用関連が同▲0.4ポイントであった。今回の調査結果をふまえて内閣府は基調判断を「景気は、このところ回復に弱さがみられる。」から「景気は、持ち直しの動きがみられる」へと上方修正した。

2.猛暑がもらたす消費の明暗

家計動向関連では、小売関連(前月差▲0.4ポイント)は低下したものの、住宅関連(同2.9ポイント)やサービス関連(同1.3ポイント)、飲食関連(同0.3ポイント)は上昇した。コメントをみると、「物価上昇に加え、猛暑日の記録が更新されるなど例年にない暑さが続いているため、外出を控える傾向がみられる(東北・遊園地)」や「猛暑の影響や団体客の減少により、観光客の回復が進まない(東海・一般小売店)」など、連日の猛暑の影響についてネガティブなコメントがみられた。一方、「猛暑の影響からか、全時間帯で配車回数が増加している。これまで伸びていなかった昼から夕方にかけての呼び止め乗車、無線回数も前年を上回っている(中国・タクシー会社)」や「猛暑のため、接触冷感等機能のある夏物の売行きが好調である(九州・衣料品専門店)」など、一部にポジティブなコメントもみられた。

企業動向関連では、製造業(前月差1.9ポイント)は上昇したが、非製造業(同▲1.5ポイント)は低下した。コメントをみると、「米国の関税問題が一段落し、若干ではあるが先行きの見通しが立つようになっている(北陸・一般機械器具製造業)」など、自動車をはじめとする米国との関税を巡る懸念が後退したことで、先行きを見通せるようになってきたことが分かる。

下図は、景気ウォッチャー調査の「景気判断理由集(現状)」のコメントをもとに計量テキスト分析1を行い、共起ネットワーク2を作成したものである。「猛暑」という単語は、景況感が改善したと判断した回答者、不変と判断した回答者、悪化したと判断した回答者すべてに含まれていることが分かる。
 
1 分析にはKH Coder 3(樋口2020)を使用した
2 共起ネットワークとは、よく一緒に使われる語同士を、線で結んだネットワークのことである

3.景気の先行き判断DI(季節調整値)は、前月差1.4ポイント上昇の47.3

2~3か月先の景気の先行きに対する判断DIは、前月差1.4ポイント上昇の47.3となった。先行き判断DIの内訳をみると、雇用関連(前月差3.2ポイント)、家計動向関連(同1.5ポイント)、企業動向関連(同0.5ポイント)すべてのDIが上昇した。

家計動向関連では、「物価高騰の影響で、必要最低限の商品しか購入しない客が多い(北海道・コンビニ)や「食料品以外でも物価の上昇は続くと考えるため、景気はやや悪くなる(北陸・スーパー)」など、物価高による影響で消費者が節約志向になっているとのコメントがみられた。一方、「商品の値上がりは依然続いているが、買上点数は落ちていない。暑い夏の影響もあり、飲料の売上が好調を持続している(東北・コンビニ)」や「物価高騰による旅行代金の値上げもあるが、旅行やイベントへの参加申込みは順調に増えている(東海・旅行代理店)」など、消費の底堅さを示すコメントもみられた。

雇用関連では、「米国による関税が 15%に落ち着き、先送りになっていた案件が決まり始める(近畿・人材派遣会社)」など、関税政策について米国との交渉が進展したことで、雇用にもプラスのコメントがみられた。
景気ウォッチャー調査の「景気判断理由集(先行き)」のコメントをもとに計量テキスト分析を行い、共起ネットワークを作成すると、景況感が改善すると判断した回答者のコメントには、秋、受注、選挙といった単語が多く含まれていることが読み取れる。コメントをみると、例えば「秋の行楽シーズンを迎えるに当たり、インバウンドの増加が期待できる状況であり、現状からは好転するものと予測している(中国・都市型ホテル)」や「今後の受注は新型車効果が期待でき、販売についても秋口までメーカーから安定した配車状況が見込めるため改善に期待したい(九州・乗用車販売)」といったコメントがみられた。
2025年7月調査の結果は、景況感は現状、先行きともに改善していることを示すものであった。日米関税合意によって警戒感が和らぎ、先行きの見通しが立つようになった等のポジティブなコメントが一部にみられた。米国との交渉がさらに進展することが期待される。

経済研究部   研究員

佐藤 雅之(さとう まさゆき)

研究領域:経済

研究・専門分野
日本経済

経歴

【職歴】
 2020年4月 株式会社横浜銀行
 2024年9月 ニッセイ基礎研究所

【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員

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