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中国、3歳まで育児手当支給へ

2025年08月08日

(片山 ゆき) 中国・アジア保険事情

1――3歳まで毎年3,600元、第3子まで受給が可能に

中国政府は、7月、満3歳までの子ども1人につき年3,600元(約74,000円)の育児手当を支給すると発表した1。対象は2025年1月1日以降に出生した子どもで、2024年12月までに生まれた3歳未満の子どもも月数に応じて支給される2。支給は第3子までで、いずれも同額となっている。政府は年間およそ2,000万もの子育て世帯が恩恵を受けるとしている。

この育児手当は、個人所得税の課税対象外となり、生活保護受給者の場合も収入として算入されないこととなっている。政府はこれにより子育て世帯の経済的な負担を軽減し、少子化の抑制、消費拡大をはかる方針である。

申請は、子どもの両親の一方または後見人が子どもの戸籍所在地で行う。申請は主にオンラインで受け付けられ、アリペイやWeChatの「育児手当」ミニプログラム、または子どもの戸籍所在地の行政サービスプラットフォームから可能となっている。給付金は申請者または子どもの銀行口座などに振り込まれる。各地域は現在、実施計画を策定中で、8月下旬から順次申請受付を開始する見込みとなっている。

財源は主に中央財政が負担し、残りを地方財政などが負担する。2025年中に「育児手当補助金」として、およそ900億元(全体の約90%)が暫定的に配分される3。地方政府は、国の定める支給額を基準に、財政状況に応じて上乗せが可能であるが、その分は地方財政で賄うことになる。
 
1 中華人民共和国中央人民政府「中共中央弁公庁 国務院弁公庁印発≪育児補貼制度実施方案≫」、2025年7月29日、https://www.gov.cn/zhengce/202507/content_7034132.htm、2025年7月31日取得。
2 例えば2022年1月生まれの子どもの場合、育児手当の支給は合計300元となる。また、2024年12月生まれの子どもの場合、2025年~2027年までに毎年3,600元で合計10,800元が支給される。
3 中華人民共和国中央人民政府「国務院新聞弁就育児補貼制度及生育支持措施有関情況挙行発布会」、2025年7月30日、https://www.gov.cn/zhengce/202507/content_7034595.htm、2025年7月31日取得。

2――育児手当をすでに実施している地域では継続も可能

2――育児手当をすでに実施している地域では継続も可能

中国では、これまで一部の地域で独自の育児手当が支給されてきた。2024年10月時点で、育児手当を導入しているのは23地域(省・市・県など)で、多くは市レベルの実施にとどまっており、全国の都市の1割未満となっている。多くの都市は2023年以降に導入しており、その背景には出産奨励策への転換となった「中国版エンゼルプラン」4の発表がある。

支給内容や条件は地域によって大きく異なる。内容が公表されている10都市をみると、対象者は第3子が中心で、一部の地域では第2子も支給対象となっている(図表1)。第1子の支給は限定的であり、これは、第2子(2016年)、第3子(2021年)の出産容認・奨励の影響とみられる。これに対し、今回の全国版の育児手当は出生順序に関係なく、第3子まで同額の支給を受けられるよう考慮されている5
支給条件は、多くの都市で両親の戸籍が申請地にあること(両方またはいずれか一方)を求めるなど、全国版より厳しくなっている。なお、所得制限などは設けられていない。

支給期間は多くの都市が3年間と全国版とほぼ同じであるが、支給額は全国版の年3,600元を上回るケースが多い。例えば、本年6月に導入したフフホト市では、第1子から第3子まで支給対象とし、第3子は最長10年間支給するなど、長期かつ高額な制度を設けている地域もある。

中国政府は、既存の制度で全国版を上回る支給額を設定している地域について、上級の監督当局への届け出を条件に継続を認める方針を示している。今後、若年層の移住促進などを目的とした育児手当拡充の動きも予想されるが、実施可能なのは財政基盤の比較的整った都市に限定されるとみられる。

地方財政の制約は依然として大きく、政府は育児手当支給に際して、省レベルの行政機関に市ごとの給付額に大きな格差が発生しないよう求めている。加えて、これまで育児手当がなかった地域には新設を、全国版の支給額を下回る地域には引き上げを求めている。

ただし、0~3歳の平均養育費が73,614元(約151万円)6であるのに対して、3歳まで支給される育児手当の総額は1人あたり10,800元(約22万円/全国版)となっている。これでは出産直後の一部の経費を補うことはできても、育児の実質的な負担軽減効果は限定的と考えられる。
 
4 「関于進一歩完善和落実積極生育支持措施的指導意見」(2022年7月)、17の省庁が連名で発出。結婚、出産、育児、教育という系統的な支援システムを整備するとした。(1)出産・育児関連サービスの充実化、(2)託児サービスの普及、(3)産前産後・育児休業の改善、(4)住宅・税金関連の優遇、(5)良質な教育資源の供給拡大、(6)子どもを産み育てやすい就業環境づくり、(7)出産奨励関連の広報・啓発の7つの分野を強化。
5 第4子以降に育児手当の給付が設けられていない点については、政策としての第3子までの出産容認(2021年)に連動していると考えられる。
6 育媧人口研究智庫「中国生育成本報告2024版」。

3――今後の課題

3――今後の課題

中国における直近の育児手当や子育て支援関連の動きを振り返ると、2024年7月に開催された第20期3中全会で、出産・育児支援制度の確立が人口対策の重要施策として位置づけられている。更に、2024年10月には「出産・育児支援政策システムの整備を加速し、出産・育児にやさしい社会づくりを推進するための諸施策」が発表され、3歳未満の乳幼児の保育費用について個人所得税免除を1人あたり月額2,000元に引き上げる策や、産休・育休の延長(合計158日)、男性が取得できる「配偶者出産休暇」(15日ほど)、3歳以下の子どもの看護休暇(5~20日)の新設や普及についても言及している。2025年3月の全国人民代表大会後の政府活動報告でも、育児手当制度の創設と手当支給への言及があり、7月初旬には制度の近日中の正式発表が報道されていた7。子育て支援や育児手当に関する政府の政策的な機運は高まっていた。

今回の全国統一の育児手当制度の導入は、国の出産・子育て支援策として大きな一歩と言える。しかし、今後に向けていくつかの課題も指摘されている。まず、支給額は養育を賄うには不足しており、支給期間も短い点である。平均養育費をみると、4歳から高校を卒業する18歳までは439,698元(約900万円)、大学進学となると更に平均142,000元(約290万円)が必要となる8。まさに子どもの養育費がピークとなる時期についてはサポートがない状況にある。

また、現金給付のみでは、出産・育児休業後の職場復帰支援、保育所への入所措置などとの連携が弱いため、子育て全体の負担軽減にはつながりにくいであろう。少子化による保育所不足や世帯構造の変化による家族内サポートの弱体化もあり、行政・育児サービス面の拡充も必要である。女性の職場復帰後のキャリアパスの形成、働き方のフレキシブル化、企業による子育てサポートの拡充など企業と行政の連携も重要となってくる。
 
7 新浪財経「育児補貼制度実施方案近日公布:毎孩毎年可領3600元補貼」、2025年7月3日、
https://finance.sina.com.cn/jjxw/2025-07-03/doc-infeezva4630791.shtml、2025年8月4日取得。
8 出典は注6と同一。

保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

片山 ゆき(かたやま ゆき)

研究領域:保険

研究・専門分野
中国の社会保障制度・民間保険

経歴

【職歴】
 2005年 ニッセイ基礎研究所(2022年7月より現職)
 (2023年 東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程修了、博士(学術)) 【社外委員等】
 ・日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
 (2019~2020年度・2023年度~)
 ・金融庁 中国金融研究会委員(2024年度~)
 ・生命保険経営学会 編集委員・海外ニュース委員
 ・千葉大学客員教授(2024年度~)
 ・千葉大学客員准教授(2023年度) 【加入団体等】
 日本保険学会、社会政策学会、他

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