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インドネシア経済:25年4-6月期の成長率は前年同期比+5.12%~輸出と投資の拡大で2年ぶりの高水準

2025年08月05日

(斉藤 誠) アジア経済

インドネシアの2025年4-6月期の実質GDP成長率1は前年同期比(原系列)5.12%増(前期:同4.87%増)と上昇し、市場予想2(4.80%)を上回った。

4-6月期の実質GDPを需要項目別に見ると、輸出と投資の拡大が成長率上昇に繋がった(図表1)。

民間消費は前年同期比4.97%増(前期:同4.95%増)の横ばいとなった。費目別に見ると、住宅設備(同4.34%増)が鈍化したものの、ホテル・レストラン(同6.77%増)と輸送・通信(同6.48%増)、食料・飲料(同4.15%増)、保健・教育(同4.16%増)が改善した。

政府消費は前年同期比0.33%減(前期:同1.37%減)と低迷した。

総固定資本形成は前年同期比6.99%増(前期:同2.12%増)と上昇した。機械・設備投資(同25.30%増)と建設投資(同4.89%増)がそれぞれ改善した。

純輸出は成長率寄与度が+0.22%ポイントとなり、前期の+0.71%ポイントから縮小した。財・サービス輸出は前年同期比10.67%増(前期:同6.46%増)と拡大した。輸出の内訳を見ると、財輸出が同10.67%増、サービス輸出が同11.17%増となり、それぞれ二桁増だった。また財・サービス輸入も同11.65%増(前期:同4.17%増)となり大きく伸びた。輸入の内訳を見ると、財輸入が同12.17%増、サービス輸入が同8.43%増だった。
供給項目別のGDPをみると、第二次産業が改善した(図表2)。

まず第二次産業は前年同期比4.67%増(前期:同2.84%増)と上昇した。内訳を見ると、電気・ガス・水供給業(同0.89%増)が鈍化した一方、全体の2割を占める製造業(同5.68%増)と建設業(同4.98%増)、鉱業(同2.03%増)が改善した。

第三次産業は前年同期比6.05%増(前期:同6.04%増)の横ばいとなった。内訳を見ると、ビジネスサービス(同9.31%増)や運輸・倉庫(同8.52%増)、ホテル・レストラン(同8.04%増)、情報・通信(同7.92%増)、そして構成割合の大きい卸売・小売(同5.90%増)が堅調に拡大した一方、教育(同1.40%増)、行政・国防(同4.69%増)、金融・不動産(同3.20%増)は相対的に低めの伸びとなった。

第一次産業は前年同期比1.65%増となり、大きく伸びた前期の同10.52%増から鈍化した。
 
1 2025年8月5日、インドネシア統計局(BPS)が2025年4-6月期の国内総生産(GDP)を公表した。
2 Bloomberg調査

4-6月期GDPの評価と先行きのポイント

インドネシアの2025年4-6月期の成長率は前年同期比5.12%となり、2年ぶりの高成長となった。今年1-3月期(同+4.87%)が2021年7-9月期以来の低成長となり、また借入需要の鈍化が続くなど景気の減速傾向がみられていたため(図表3)、市場予測を上回る「サプライズ」となった。

4-6月期は輸出と投資の拡大が成長率上昇に繋がった。まず投資(同+6.99%)については、首都ジャカルタで建設が進められている大量高速輸送(MRT)システムの拡張などのインフラ開発が追い風となった。

また財輸出(同+10.62%)は2年半ぶりに二桁成長となった。トランプ米政権による関税政策を警戒した駆け込み需要が輸出を押し上げたとみられる。インドネシア統計局によると、6月は米国向け輸出(石油・ガス除く)が前年同月比+33.5%と大幅に増加した。米国向け輸出品目としては、電気機械や衣料品、履物、パーム油、ゴム、魚介類などがある。またサービス輸出(同+11.17%)も高成長を回復した。4-6月期の外国人観光客数は同14.0%の388万人となり、インバウンド需要の勢いは加速している(図表4)。一方、輸入(同+12.17%)が大きく伸びたため、外需の成長率寄与度は前期から0.49%縮小している。

GDPの半分以上を占める民間消費は前年同期比+4.97%(前期:同+4.95%)の横ばいだった。自動車販売の減少(4-6月期:同▲12.9%)、消費者信頼感の冷え込みなど、4-6月期は消費が鈍化すると予想されたが、予想外にも堅調な伸びを維持した。最近の利下げや政府による景気刺激策、低インフレ環境、そしてイスラム教の断食月明け大祭や休暇シーズン中の支出増が消費を下支えした可能性がある。
インドネシア経済は内需の鈍化により5%割れの成長が続くと予想していたが、消費が予想外に堅調に推移したため、4-6月期は5%を上回る成長率となった。しかし、今後は米国の関税発動により、上半期の輸出を押し上げていた米国向けの駆け込み需要の反動が生じる可能性が高い。米国が8月7日に発動する相互関税はインドネシアが19%となったが、これは相対的に高めの水準であり、今後は国際貿易の鈍化で輸出が低迷し、貿易黒字が縮小する可能性がある。また貸出の動きは鈍化傾向にあり、投資の伸びが年後半も持続するかは不透明だ。政府の景気刺激策や学校給食の無償化、金融緩和などによりインドネシアが成長ペースを維持できるか注目したい。

経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠(さいとう まこと)

研究領域:経済

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴

【職歴】
 2008年 日本生命保険相互会社入社
 2012年 ニッセイ基礎研究所へ
 2014年 アジア新興国の経済調査を担当
 2018年8月より現職

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