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家計消費の動向(二人以上世帯:~2025年5月)-物価高でも、旅行・レジャー・デジタルなど楽しみへの消費は堅調

2025年07月18日

(久我 尚子) ライフデザイン

4――おわりに~物価高でも楽しみへの消費は堅調、慎重さのなかにある変化の兆しに注目

本稿では、総務省「家計調査」を用いて、2025年5月までの二人以上世帯の消費動向を分析した。その結果、物価高によって可処分所得の伸びが鈍る中で、食料や日用品などの生活必需品に対する支出を抑える一方で、娯楽に対しては一定の支出を維持する動きがみられた。

足元での新たな動きとしては、海外旅行を含むパック旅行費が改善傾向にあることだ。これまでは円安による割高感から海外旅行を控え、代わりに国内旅行やレジャーを選択する様子が見られた。しかし、円安の進行に一旦落ち着きが見られ、消費者の間には円安は今後も続くものとの受け止めが広がったことで、今のうちに行こうという意識が後押しになっているのではないだろうか。

また、電子書籍などのデジタルコンテンツへの支出も堅調に推移しており、無料や低価格の代替手段が豊富にある中でも、一定の対価を支払って楽しむ行動が根付いていると言える。
食については、外食や冷凍食品が回復基調を示し、出前も一定の需要を維持する一方で、高価格な食品については支出を抑える傾向が見られた。総じて、可処分所得に制約がある状況下においても、エンターテインメント分野への支出は大きく減少せず、娯楽が生活満足度を支える要素となっていることがうかがえる。

消費行動には、可処分所得の水準や消費者の中長期的な経済見通しが大きく影響を与える。2025年の春闘も昨年に続き高い水準であり、消費者物価上昇率が徐々に鈍化していくことで、年末(10-12月期)から実質賃金が持続的・安定的にプラスへ転じるという見通しが示されている3

こうした環境が整えば、消費者の実質的な購買力が底上げされることになるが、成熟した消費社会では、すでに安価で高品質な商品やサービスが多く流通しており、過度な消費への転換は起きにくい。加えて、長年のデフレや近年の物価高によって根づいた「節約を前提とした暮らし方」は、そう簡単には揺らがないだろう。

それでも、購買力の回復が進むことで、特に余暇や娯楽などの「楽しみ」の支出を中心に、消費全体が少しずつ前向きな方向に動き出すことが期待される。消費者の慎重さのなかにある柔らかな変化の兆しに、今後も注目していきたい。
 
3 斎藤太郎「2025・2026年度経済見通し-25年1-3月期GDP2次速報後改定」、ニッセイ基礎研究所、Weeklyエコノミスト・レター(2025/6/9)

生活研究部   上席研究員

久我 尚子(くが なおこ)

研究領域:暮らし

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴

プロフィール
【職歴】
 2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
 2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
 2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
 2021年7月より現職

・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

【加入団体等】
 日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
 生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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