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トランプ関税前後の貿易状況

2025年07月07日

(高山 武士) 欧州経済

続いて関税収入の動向を確認すると、4月以降の相互関税など大規模な引き上げにより急増していることが分かる(要旨図表)。国勢調査局が公表している推計値(Calculated Duty)4を用いて関税率(=関税収入推計値/輸入金額5)を計算すると、25年初の2%強から9%弱まで急上昇している(なお、関税率の計算上、関税対象製品の輸入減少は関税率を低下させるよう作用する点に留意)。

品目別には鉄鋼製品(73)やアルミニウム・同製品(76)といった品目別関税の対象のほか、中国からの輸入比率が高い品目である傘(66)や履物(64)などの日用品の関税率も上昇幅が大きいことが分かる(図表8:品目別関税率、図表9:中国からの輸入比率)。
また、主要地域6別に見た関税率も総じて上昇している(図表10)。
相互関税が一時的に大幅に引き上げられた中国では、関税率が30%ポイント以上上昇し、5月の関税率は40%を超えた。その他の地域を見ると中国に次いで日本の関税率の上昇幅も大きい。関税率の高い品目(日本の場合は自動車)を多く輸出しているためであり、同様に韓国やドイツ、メキシコといった地域の関税率も高めになっている(図表11、各地域の米国への輸出品目のうち高めの関税が課されている品目別関税の対象製品の対米輸出シェアを図示7)。
 
4 推計値のため、実際の関税額とは異なる。
5 関税収入を輸入金額で除した関税率は、各地域・品目毎の関税率を貿易ウエイトで加重平均した関税率と計算上は一致する(関税収入/輸入金額=Σ(各地域・品目の輸入金額×各地域・品目の関税率)/(輸入金額)=Σ(各地域・品目の輸入ウエイト)×(各地域・品目の関税率))。ただし、例外規定品目などにより両者の計算結果が異なることがあり得る。
6 G20構成地域(EUおよびAUを除く)および米国の輸入シェアが大きいアイルランド、スイス、台湾、タイ、ベトナムを対象とした。
7 米国の輸入データから計算。なお、HS2桁コードで抽出しているため、実際に関税が課されている品目とは一致しない。

4――輸入価格への影響

4――輸入価格への影響

トランプ関税の影響としては(関税を除く)輸入価格への影響、つまり米国への輸出企業が需要の低下を回避するために価格を引き下げるのか否かといった動きも注目される。

米国の輸入物価指数を確認すると(図表12、輸入物価指数は関税を含まない点に留意)、輸入全体で見るとトランプ関税の前後では大きく変化していないが、国別には年初以降にバラツキも見られ、中国からの輸入価格はトランプ関税前から緩やかに低下、ASEANやドイツ、フランスからの輸入物価はやや強含んでいる。ただし、これらがトランプ関税の影響によるものかは判然としない。
品目別に輸入物価の状況を確認しても、5月時点では高関税が課された鉄鋼・アルミ(72・73・76)や自動車(87)の輸入価格には大きな変化は見られない(図表13)。
一方、日本銀行のデータによれば、日本の北米向け輸出物価が大きく下落している(図表14)。韓国やドイツの貿易統計でも輸送用機器の輸出単価がやや低下しており、一部の地域・品目では価格低下圧力が生じている可能性がある。



 

5――おわりに

5――おわりに

以上、トランプ関税前後の貿易について概観してきた。

米国の関税引き上げの影響は、米国における税込みの輸入価格の上昇を受けた輸入減少圧力や、(関税を除く)輸入価格の低下圧力として作用すると想定される。5月までの状況は、全体でみれば輸入金額および輸入物価ともに前年並みであり、大きな変化は見られない。ただし、関税収入は急増しており、一部の地域・品目においては輸入の減少や価格の低下といった関税の影響と見られる動きも生じている。引き続き今後の動向が注目される。

経済研究部   主任研究員

高山 武士(たかやま たけし)

研究領域:経済

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴

【職歴】
 2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
 2009年 日本経済研究センターへ派遣
 2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
 2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
 2014年 同、米国経済担当
 2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
 2020年 ニッセイ基礎研究所
 2023年より現職

 ・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
  アドバイザー(2024年4月~)

【加入団体等】
 ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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