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グローバル株式市場動向(2025年6月)-半導体関連銘柄を中心に上昇

2025年07月07日

(原田 哲志) 株式

1――米ハイテク企業の堅調な業績を背景に半導体銘柄を中心に上昇

2025年6月、世界の株式市場は上昇した。米国のハイテク企業の堅調な業績を背景とした半導体需要拡大期待による半導体関連銘柄の上昇や米中の貿易協議への進展期待が株式市場を押し上げた。代表的な世界株指数(含む新興国)であるMSCI All Country World Index (MSCI ACWI)の騰落率1は2025年6月+4.4%、過去1年(2024年7月-2025年6月)では+14.4%となっている(図表1)。

先進国と新興国を比べると、新興国が先進国を上回った。先進国(MSCI World Index)が+4.2%、新興国(MSCI Emerging Markets Index)が+5.7%となった(図表2)。
グロース・バリューでは、グロース指数(MSCI ACWI Growth Index)が+5.1%、バリュー指数(MSCI ACWI Value Index)が+3.6%とグロース優位となった(図表3)。企業規模別では、大型株(MSCI ACWI Large Cap Index)が+4.4%、中型株(MSCI ACWI Mid Cap Index)が+4.0%、小型株(MSCI ACWI Small Cap Index)が+4.7%と小型株の騰落率が高かった(図表4)。
 
1 以下、特に断りのない限り騰落率は米ドル建、配当を除いた指数値の変化率を示す。

2――国・業種別の動向

2――国・業種別の動向

国別の動向を見ると多くの国が上昇した(図表5)。主要国について見ると、米国(+5.0%)、中国(+3.1%)、ドイツ(+2.6%)、日本(+1.5%)となった。騰落率が高かった国・地域は韓国(+17.3%)、トルコ(+10.8%)、ポルトガル(+8.4%)だった。一方で、アルゼンチン(▲10.5%)、インドネシア(▲4.9%)、タイ(▲2.9%)の騰落率が低かった。

米国では一時中東情勢の緊張が懸念されたものの、その後は緊張が和らいだことや中国との貿易協議の進展、好調なハイテク企業や半導体関連銘柄が牽引し上昇した。

日本は米中の貿易協議の進展期待や米国ハイテク企業の堅調な業績を受け半導体関連銘柄が株式市場を牽引し上昇した。

中国は政府による景気刺激策から家計消費が増加するなど堅調な景気拡大や米国との貿易協議の進展期待、バイオテクノロジー企業への投資家の注目の高まりが株式市場を牽引し上昇した2

米製薬大手ファイザーは中国の三生製薬(スリー・エス・バイオ)が開発しているがん治療薬のライセンス取得のために過去最高となる12億5000万ドル(約1800億円)を支払うことで合意した3

韓国では6月3日に投開票が行われた大統領選挙で最大野党である「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)前代表が当選した。同氏は株式市場の活性化を掲げており、新政権の政策期待から上昇した4

アルゼンチンは米国の関税引き上げにより輸出関連銘柄の収益が減少したことや10月に予定されている中間選挙による不透明感から下落した。
業種別に見ると、半導体・半導体製造装置(+16.0%)、メディア(+7.8%)、電気通信サービス(+6.8%)の騰落率が高かった。一方で、自動車・自動車部品(▲5.3%)、家庭用品・パーソナル用品(▲4.3%)、 商業サービス・用品(▲2.1%)の騰落率が低かった(図表6)。
 
2 Bloomberg、「米中、関税休戦への署名を確認-10の貿易相手と合意近いと米商務長官」、2025年6月27日
3 Bloomberg、「中国バイオテク株にDeepSeek級の熱狂、年初来60%高でAIしのぐ」、2025年6月16日
4 日本経済新聞、「韓国株4日 10カ月ぶり高値 李氏が新大統領に ウォン高、金利上昇」、2025年6月4日

3――世界の主要企業の株価動向

3――世界の主要企業の株価動向

世界の主要な企業の株価はまちまちな結果となった(図表7)。時価総額上位30社までの企業では、 オラクル(+32.1%)、エヌビディア(+16.9%)、ブロードコム(+14.1%)のリターンが高かった。一方で、テスラ(▲8.3%)、プロクター・アンド・ギャンブル(▲6.2%)、コストコホールセール(▲4.8%)のリターンが低かった。

米国のソフトウェア開発大手オラクルは2026年度のクラウドインフラ部門の売上高が70%超増加するとの見通しを発表したことが好感され上昇した5。企業などの情報を管理するデータベースを提供する同社のクラウドサービスは、近年ではAI関連企業での利用が広がっている。同社は、生成AIサービスを提供する米OpenAIのための新たなAIインフラストラクチャを米国内で構築する合弁事業「スターゲート計画」への参加を発表するなど、クラウド事業の拡大が期待されている。

テスラのCEOであるイーロンマスク氏はトランプ政権の減税法案が財政赤字を拡大させるとして批判した。この批判にトランプ大統領が反発したことから、両者の対立による事業環境への悪影響が懸念されテスラは下落した6。トランプ大統領は自身が運営するSNSであるトゥルース・ソーシャルに「予算を削減する最も簡単な方法はイーロン(の事業)への補助金や政府契約を打ち切ることだ」とも書き込んでいる。
 
5 Bloomberg、「オラクル、クラウドインフラ事業に強気見通し-通期70%超増収へ」、2025年6月12日
6 日本経済新聞、「テスラ時価総額22兆円消失 過去最大、マスク氏とトランプ氏決裂で」、2025年6月6日

4――今後の見通しと注目されるテーマ

4――今後の見通しと注目されるテーマ

世界の株式市場は貿易協議の進展期待や米国のハイテク企業の堅調な業績を背景とした半導体需要の拡大期待から上昇した。こうした中、6月10日に世界銀行は世界経済見通しを公表した7。世界銀行は2025年の世界経済の成長率を2.3%と予測、前回の予測から0.4%下方修正した。世界銀行は予測の大幅な下方修正を行っており、2026-27年についても回復は低水準にとどまると予測した。また、貿易制限が強化された場合や政策の不確実性が高い状況が継続した場合、成長率はさらに鈍化すると指摘している。

経済や株式市場の不透明感の払拭には、貿易協議の進展が求められる。しかし、各国の米国との交渉はまちまちであり、交渉が停滞する国・地域もある。米国のトランプ大統領は日本との貿易協議について米国産の米を受け入れないことや自動車による貿易赤字への不満などから「日本との合意疑わしい」と発言するとともに関税の30~35%への引き上げを示唆した8

日本への上乗せ関税は期限付きで停止されているが、貿易協議が進展しない場合、上乗せ関税の実施や税率の引き上げが再度懸念されることとなる。こうしたリスク要因の経済・株式市場への影響に引き続き注視したい。
 
7 世界銀行、「世界経済の成長率は、景気後退期を除けば2008年以来最も低い水準に」、2025年6月10日
8 日本経済新聞、「トランプ氏「日本との合意疑わしい」 関税30~35%に引き上げ示唆」、2025年7月2日

金融研究部   准主任研究員・サステナビリティ投資推進室兼任

原田 哲志(はらだ さとし)

研究領域:医療・介護・ヘルスケア

研究・専門分野
資産運用、ESG

経歴

【職歴】
2008年 大和証券SMBC(現大和証券)入社
     大和証券投資信託委託株式会社、株式会社大和ファンド・コンサルティングを経て
2019年 ニッセイ基礎研究所(現職)

【加入団体等】
 ・公益社団法人 日本証券アナリスト協会 検定会員
 ・修士(工学)

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