ロシアの物価状況(25年5月)-インフレ圧力の軽減傾向が継続

2025年06月12日

(高山 武士) 欧州経済

1.結果の概要:前年比で総合指数は9.9%、コア指数は8.9%といずれもやや低下

6月12日、ロシア連邦統計局は消費者物価指数を公表し、結果は以下の通りとなった。
 

【総合指数(25年5月)】
前年同月比は9.88%、市場予想1(9.80%)よりやや上振れ、前月(10.23%)から低下した(図表1)
前月比は0.43%、市場予想(0.35%)より上振れ、前月(0.40%)からやや加速した

【コア指数2(25年5月)】
前年同月比は8.94%、前月(9.23%)から低下した(図表2)
前月比は0.60%、前月(0.32%)から加速した

 
1 bloomberg集計の中央値。以下の予想値も同様。
2 生鮮食品など季節的要因による影響を受ける品目や管理品目を除いた指数。

2.結果の詳細:前月比での下落品目は多い

5月のロシアのインフレ率は前年比で9.88%となり、4月(10.23%)から低下、25年1月(9.92%)以来の1桁台となった。なお、6月6日、ロシア中銀は内需の伸び鈍化とインフレ鈍化を受けて、22年9月以来となる利下げを決定している(21.0→20.0%)。

インフレ率を大分類別に見ると、5月の前年比伸び率は食料品が12.49%(前月:12.66%)、財(非食料品)が4.81%(前月:5.43%)、サービスが12.55%(前月:12.76%)となり、いずれの大分類でも低下した。

前年比寄与度では食料品が4.8%ポイント程度、財(非食料品)が1.6%ポイント程度、サービスが3.5%ポイント程度と見られる(図表1)。

5月の前月比伸び率は、総合指数で0.43%、コア指数で0.60%となった。これまでの減速傾向から反転、総合指数・コア指数ともにコロナ禍前の標準的な上昇率から再び上振れした(2018年の前月比伸び率は平均で総合指数が約0.35%、コア指数が約0.30%、図表3)。

前月比伸び率を大分類で見ると食料品が0.26%(前月:0.71%)、財(非食料品)が▲0.13%(前月:▲0.07%)、サービスが1.34%(前月:0.53%)となった。

別途、ロシア連邦統計局が公表している週次のインフレ率(消費者物価上昇率)を見ると、最新の6月9日時点において、前週比で0.03%の上昇となった(図表4)。6月も物価上昇の勢いは落ち着いた状況となっている。
ロシア中央銀行が公表する家計のインフレ期待(1年先中央値、実際のインフレ率よりも高めになる傾向がある)は、5月は13.4%で、実際のインフレ率は低下したにもかかわらず、期待インフレ率は4月から上昇した。ただし、これまで過去の傾向(期待インフレ率≒前年比インフレ率+6%、図表5)と比較すると、期待インフレ率と実際のインフレ率との乖離が拡大している状況は続いている(期待インフレ率がやや低め)。
品目別の上昇率を見ると3(図表6)、5月は前年比でバター(28.91%)、魚・海鮮(20.83%)、青果物(19.84%)、旅客サービス(19.23%)の伸び率が高い一方、卵(▲18.04%)とテレビ(▲6.3)は前年比でもマイナスとなった。また、前月比では、海外旅行サービス(4.03%)、旅客サービス(3.47%)の上昇率が相対的に大きい一方、卵(▲6.00%)、テレビ(▲2.78%)、青果物(▲1.96%)、タバコ(▲0.95%)は下落幅が大きかった。
各品目の消費ウエイトも考慮して、全体のインフレ率への寄与を品目別に見ると(図表7・8)、前年比上昇率への寄与が大きい品目は住居・公益サービス(1.14%ポイント)、青果物(1.02%ポイント)、下落率への寄与が大きい品目は卵(▲0.11%ポイント)だった。

前月比上昇率の寄与では、その他サービス(約0.16%ポイント)、肉(約0.08%ポイント)、旅客サービス(約0.08%ポイント)のプラス寄与が相対的に高い一方、青果物(約▲0.10%ポイント)、卵(約▲0.04%ポイント)はマイナス寄与が大きく、また下落品目も多かった。
なお、現時点において統計局ウェブサイトで公表されていない品目も含む4月の上昇率寄与を見ると、前年比では概ね5月と同様の傾向が見て取れる(図表9・10)。
 
3 大分類である食料品、財(非食料品)、サービスをそれぞれ細目別に分類したもの(中分類)のうち、統計局のウェブサイトで公表しているものを記載。健康増進サービスおよび残差から算出されたその他サービスは前月比のみ。

経済研究部   主任研究員

高山 武士(たかやま たけし)

研究領域:経済

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴

【職歴】
 2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
 2009年 日本経済研究センターへ派遣
 2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
 2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
 2014年 同、米国経済担当
 2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
 2020年 ニッセイ基礎研究所
 2023年より現職

 ・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
  アドバイザー(2024年4月~)

【加入団体等】
 ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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