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景気ウォッチャー調査2025年5月~現状判断DIは5ヵ月ぶりの上昇、関税政策への過度な懸念が後退~

2025年06月10日

(佐藤 雅之) 日本経済

1.景気の現状判断DI(季節調整値)は前月差1.8ポイント上昇の44.4

内閣府が6月9日に公表した景気ウォッチャー調査によると、25年5月の景気の現状判断DI(季節調整値)は前月差1.8ポイント上昇の44.4と5ヵ月ぶりの上昇となった。

地域別では、全国12地域中、11地域で上昇、1地域で低下であった。最も上昇幅が大きかったのは沖縄(前月差6.8ポイント)で、低下したのは甲信越(同▲2.3ポイント)であった。

現状判断DI(季節調整値)の内訳をみると、家計動向関連が前月差2.5ポイント、企業動向関連が同▲1.0ポイント、雇用関連が同2.5ポイントであった。今回の調査結果をふまえて内閣府は基調判断を「景気は、このところ回復に弱さがみられる。」と据え置いた。

2.今年のゴールデンウィークの売れ行きはまちまちか

家計動向関連では、飲食関連(前月差▲2.3ポイント)は低下したが、小売関連(同2.9ポイント)、サービス関連(同2.3ポイント)、住宅関連(同6.3ポイント)が大きく上昇した。コメントをみると、「ゴールデンウィークの日並びと雨天による来園者減少や、毎週末の降雨やガソリン価格の高騰等、マイナス要因が多くある(北関東・テーマパーク)」など、今年のゴールデンウィークは日並びや天候が悪かったことからネガティブなコメントがみられた一方、「今年のゴールデンウィークは期間が短く、5月3日から5日に集中した。それなりに単価を上げてはいたものの、近隣の有名観光地の宿泊価格がそれ以上に高騰していたため、比較的良心的な価格を出していた当館は、空室が1つ出ると即座に埋まってしまう状況であった(甲信越・観光型旅館)」とポジティブなコメントもみられた。

企業動向関連では、非製造業(前月差0.9ポイント)が小幅に上昇したものの、製造業(同▲3.0ポイント)が低下した。コメントをみると、「米国の関税の影響もあり、車載向け製品の受注量が減少している。また、液晶関連装置は引き続き生産調整が続いている(中国・電気機械器具製造業)」や「周辺企業の販売量が減少している。米国の関税の動きに対する警戒感が強まっていることで、投資の先送りや規模縮小といった動きがみられる(北海道・通信業)」など、米トランプ政権による関税政策の影響で企業は苦戦していることがうかがえる。

雇用関連では、「関西の地元企業からの新聞広告やデジタル広告の利用状況をみると、大阪・関西万博の影響もあってか、前年を上回っている(近畿・新聞社)」と、大阪・関西万博による効果が出ているとのコメントがみられる。

下図は、景気ウォッチャー調査の「景気判断理由集(現状)」のコメントをもとに計量テキスト分析1を行い、共起ネットワーク2を作成したものである。景況感が改善したと判断した回答者のコメントには、インバウンド、関西万博、大阪といった単語が多く含まれていることが読み取れる。ゴールデンウィークという単語は、景況感が改善したと判断した回答者のコメントと景況感が悪化したと判断した回答者のコメントの両方に含まれていた。
 
1 分析にはKH Coder 3(樋口2020)を使用した
2 共起ネットワークとは、よく一緒に使われる語同士を、線で結んだネットワークのことである

3.景気の先行き判断DI(季節調整値)は、前月差2.1ポイント上昇の44.8

2~3か月先の景気の先行きに対する判断DIは、前月差2.1ポイント上昇の44.8となった。先行き判断DIの内訳をみると、家計動向関連(前月差1.9ポイント)、企業動向関連(同3.4ポイント)、雇用関連(同0.9ポイント)のすべてのDIが上昇した。
家計動向関連では、「大型レジャー施設の開業で沖縄が更に注目され、観光客が増えるとみている(沖縄・その他専門店[書籍])」と、7月25日にグランドオープンするテーマパーク「ジャングリア沖縄」に期待するコメントがみられる。

企業動向関連では、「米国の関税政策の影響で、主要取引先は少しずつ減産傾向へ動いている。今のところ3ヵ月先の予定ではあるものの、先行きに不安がある(北関東・輸送用機械器具製造業)」など、関税政策に対して先行き懸念のコメントがみられる一方、「米国の関税方針が落ち着けば、現在止まっている半導体関連の設備投資案件が再開したり、新たな設備投資が行われる見込みがある(東海・一般機械器具製造業)」や「関税問題はあるが現時点では生産数への影響は余りみられず、3ヵ月内示から見ても計画台数に対し上振れ傾向で推移している(九州・輸送用機械器具製造業)」など関税政策への過度な懸念が後退していることがわかる。

景気ウォッチャー調査の「景気判断理由集(先行き)」のコメントをもとに計量テキスト分析を行い、共起ネットワークを作成すると、景況感が改善すると判断した回答者のコメントには、夏、来客数といった単語が多く含まれていることが読み取れる。
2025年5月調査の結果は、米国の関税政策への過度な懸念が後退したことから、景況感は現状、先行きともに改善していることを示すものであった。ただし、4月13日から開催されている大阪・関西万博については一部にポジティブなコメントがみられたものの、近畿の景気の判断DIは現状が45.1(前月差0.8ポイント)、先行きが44.8(同0.7ポイント)と小幅な上昇にとどまっており、現時点では景況感の押し上げには至っていない。一方、7月25日にグランドオープンするテーマパーク「ジャングリア沖縄」の影響により、沖縄の景気の現状判断DIが58.3(同6.8ポイント)と大きく上昇しており今後に注目される。

経済研究部   研究員

佐藤 雅之(さとう まさゆき)

研究領域:経済

研究・専門分野
日本経済

経歴

【職歴】
 2020年4月 株式会社横浜銀行
 2024年9月 ニッセイ基礎研究所

【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員

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