欧州大手保険グループの地域別の事業展開状況-2024年決算数値等に基づく現状分析-

2025年04月14日

(中村 亮一) 保険計理

Allianz
Allianzは、世界の約70カ国で生命保険、損害保険事業、資産管理事業等を展開している。Allianzは、以前に生命保険事業の主要な市場として、ドイツ、フランス、イタリア及び米国を挙げていたが、これらの市場における保険収益や営業利益の構成比が大きなものとなっている。

Allianzは、2024年12月10日に開催した「Capital Markets Day」において、レジリエントな価値創造に向けて、(1)新規顧客の獲得、クロスセルの増加、解約率の削減による、スマートな成長の促進、(2)生産性アジェンダの継続的な提供を通じた生産性の強化と最新のAI(人工知能)ソリューションの活用、(3)洗練された資本管理の枠組みに支えられた事業と財務のレジリエンスの強化、に焦点を当てると述べている。また、(1)1株当たり利益CAGRで7%~9%、(2)ROE 17%以上、(3)2027年のソルベンシーII運営資本24pts~25pts、(4)2025年から2027年の累積ネットキャッシュ送金で270億ユーロ超、の4つのグループ財務目標を導入し、平均75%以上の総配当性向をコミットしている。

Allianz SEのOliver Bäte CEOは、2024年の決算発表時に「平均を上回るレベルの自然災害、武力紛争、深刻化する分極化が引き続き大きな変動を生み出している世界的状況において、Allianzはお客様から信頼されるパートナーであり続ける」と述べている。

(1)地域別の業績-2024年の結果-
Allianzは、売上高を「保険料等(Total business volume)14」、事業損益を「営業利益(Operating profit)」で説明しているので、以下の図表にはこれらの数値を掲載している。また、>図表中の保険料等や営業利益の数値は、生命保険と損害保険の合計数値を掲載しているが、これに資産管理や持株会社その他のセグメントを加えた会社全体の数値は、それぞれ1,797億78百万ユーロ、160億23百万ユーロ(2023年はそれぞれ1,617億ユーロ、147億46百万ユーロ)となっている。

これによれば、営業利益(生保・医療)は、自国のドイツの構成比が26%(2023年は25%、2022年は32%)で、フランス、スペイン、イタリア等の主要国からも有意な収益を上げており、欧州全体で67%(2023年は66%、2022年は69%)の構成比となっている。一方で、営業利益(損保)は、ドイツの構成比が17%(2023年は17%、2022年は24%)、欧州全体で65%(2023年は64%、2022年は64%)となっている。

米国の子会社であるAllianz Life Ins Groupは、2024年末の認容資産ベースで、米国の生命保険・医療保険グループで第18位(2023年末は第18位)15となっている。そのグループ全体の生命保険事業における構成比は、保険料等で25%、保険収益で12%、営業利益で20%、新契約価値で28%、CSM残高で24%(2023年は、保険料等で24%、保険収益で10%、営業利益で21%、新契約価値で28%、CSM残高で22%)となっており、ほぼ2割程度の構成比となっている。
アジア・太平洋の生命保険・医療保険事業の構成比は、保険料等で8%、保険収益で10%、営業利益で11%、新契約価値で15%、CSM残高で10%(2023年は、保険料等で8%、保険収益で10%、営業利益で11%、新契約価値で14%、CSM残高で9%)となっており、ほぼ1割程度の構成比となっている。

なお、CSM残高については、税引き前等のグロスベースで、グループ全体では、2024年末は568億51百万ユーロ(生命・医療保険555億71百万ユーロ、損害保険12億82百万ユーロ)、2023年末は538億18百万ユーロ(生命・医療保険526億1百万ユーロ、損害保険12億39百万ユーロ)、2022年末533億82百万ユーロ(生命・医療保険522億27百万ユーロ、損害保険11億72百万ユーロ)16となっている。
 
14 「Total business volume」は、損害保険における「総収入保険料(gross premiums written)」と「手数料収入(fee and commission income)、生命保険/医療保険における「法定総収入保険料(statutory gross premiums)」、及び資産運用における「営業収益(operating revenues)」で構成され、銀行事業からの収益は含まれない。「総事業規模」と直訳されるが、ここでは保険事業について記述していることもあり、「保険料等」としている。
15 AM Best社の「U.S. Life/Health-2024 Financial Results」による(以下の該当箇所においても同じ)。
16 生命・医療保険と損害保険の合計は、連結効果のため、グループ全体に一致していない。

(2) 地域別の業績-2023年との比較-
2023年との比較では、グループ全体の業績の概要は、以下の通りだった。

保険料等は、内部ベース(為替換算及び買収・売却の影響を除いたもの)(以下、同様)で11.9%増加して、1,797億78百万ユーロ(うち、生命保険事業と損害保険事業で1,722億ユーロ)となった。これは主に、ドイツ、米国、イタリアを含む多くの事業体における生命保険・医療保険事業によるもので、損害保険事業と資産運用事業もプラスの内部成長を記録した。

営業利益は、全ての事業セグメントが貢献して、8.7%増加して、160億23百万ユーロ(うち、生命保険事業と損害保険事業で134億3百万ユーロ)となった。損害保険事業は、保険引受実績の改善とより高い投資実績が主な牽引役となって、14.3%増加して78億98百万ユーロとなった。生命保険・医療保険事業は、ほぼ全ての地域で好調で、6.0%増加して55億5百万ユーロとなった。資産管理事業は、運用資産総額(AUM)からの収益の増加により、3.6%増加して32億39百万ユーロとなった。

このうちの生命保険・医療保険事業の業績の概要は、以下の通りだった。

・保険料等(生保・医療)は、名目ベースでは114億39百万ユーロ、14.7%増加して、893億17百万ユーロとなったが、これには、不利な為替換算効果(3億44百万ユーロ)とマイナスの(非)連結効果(7億65百万ユーロ)の両方が含まれており、これらを除いた内部ベースでは125億47百万ユーロ、16.3%増加した。ドイツの生命保険事業は、一時払保険料の増加により、内部ベースで11.4%増加して、244億21百万ユーロとなった。米国では、市場需要の増加や販売促進により、(固定指数連動型年金と変額年金の一部の特徴を組み合わせた年金の一種である)登録指数連動型年金契約(RILA)や固定指数連動型年金契約の売上が増加したことにより、内部ベースで22.3%増加して、223億74百万ユーロ(図表上は223億83百万)となった。イタリアでは、主にユニットリンク型契約や資本効率の高い商品が増加したことにより、内部ベースで18.1%増加して、132億57百万ユーロとなった。フランスでは、新商品の販売が好調であったことに加え、保障・医療契約が生命保険料を増加させたことにより、内部ベースで11.7%増加して、80億3百万ユーロとなった。アジア・太平洋では、主に台湾における無保証ユニットリンク型契約の増加により18.7%増加して、67億95百万ユーロとなった。

・営業利益(生保・医療)は、主に多くの地域での事業の成長により、6.0%増の55億5百万ユーロと堅調に推移した。営業利益の増加要因は以下の通りである。

1) 主な利益要因はCSMの発生で、新契約の成長に伴うベースCSMの増加により、主に米国、イタリア、アジア・太平洋、ドイツで増加したが、再保険事業やフランスで一部相殺された。

2) リスク調整引当金の発生は、米国での引当金の減少に伴う前提条件の更新によるリスク調整ベースの減少により減少した。

3) 請求と費用は、主に米国、フランス、ドイツ、再保険事業の前期実績の低さにより大幅に改善した。

4) フランス、中欧、再保険事業の不利な契約により、不利な契約の損失及び損失の戻入れが悪化した。

5) (保険契約の履行に帰属しない)非帰属費用は、主にドイツと米国が事業成長に伴い増加し、イタリアは生命保証基金の拠出により増加した。
6) 営業投資実績は、主に米国の固定指数連動型年金が前期実績を上回り、フランスは利息の増加により減少した。

7) その他の営業実績は、主にフランスの費用の減少、中欧、米国の手数料の改善に支えられ、トルコとメキシコの投資契約の増加により増加した。

新契約価値は、17.8%増加して、46億94百万ユーロとなった。これは主に事業体全体の販売量が増加したことによるもので、特に米国とドイツにおける資本効率の高い商品、アジア・太平洋地域とドイツにおける保障・医療保険商品、アジア・太平洋地域とイタリアにおける無保証ユニットリンク型商品の販売量が増加した。

CSM残高は、29億70百万ユーロ、5.6%増加して、555億71百万ユーロとなった。CSMのリリースが51億37百万ユーロあったものの、新契約からの貢献が52億37百万ユーロ、保有契約収益が30億92百万ユーロあったことによる。なお、経済的変動で4億84百万ユーロ、非経済的変動(主に米国を中心とした経験差異▲13億ユーロ と前提変更▲5億ユーロ、主としてドイツ医療と米国でのモデル変更11億ユーロ)で▲7億6百万の影響があった。

(3) 地域別展開に関する方針及びトピック
Allianzは、2024年に入ってからこれまでに、以下の地域別事業展開の見直し等を公表してきている。

2024年3月1日に、Allianz SpAによる2億8,000万ユーロの対価でのAssicurazioni Generali S.p.A.からのTua Assicurazioni S.p.A.の買収が完了した、と発表した。これにより、イタリアの魅力的な損害保険部門で市場シェアが約1%ポイント増加する。また、Tua Assicurazioni S.p.A.の約500の代理店による販売能力の大幅な強化が図られる、としている。なお、この取引は、2023年10月12日に契約の締結が公表されていた。

2024年4月5日に、Allianz Global Corporate & Specialty SE(AGCS)が、Fireman's Fund子会社を通じて引き受けている米国 MidCorp及びEntertainment保険事業を、事業のフランチャイズ価値を反映した4億5,000万ドルの現金支払いで、Arch Capital Group Ltd.(Arch)の一部門である Arch Insurance North America に売却する契約を締結した、と発表した。この取引にはAllianzのリスク移転が含まれており、Archは事業に関連する約20億ドルの損失準備金を引き受ける。Archからの現金支払いと、事業を支援するAllianzの推定10億ドルの資本を合わせると、Allianz Groupの取引総額は14億ドルになると予想されている。なお、売却対象となる事業は、Fireman's Fund保険会社とその子会社、すなわちAmerican Automobile Insurance Company、Chicago Insurance Company、Interstate Fire & Casualty Company及びNational Surety Corporationによって引き受けられており、2023年の総保険料収入は合計17億ドルに上る。この取引は、2024年8月2日に、売却及び譲渡が完了したことが発表された。

2024年4月18日に、アラブ首長国連邦に拠点を置き、アブダビ証券取引所に上場している多角的地域保険会社Abu Dhabi National Insurance Company(ADNIC)へのAllianz Saudi Fransiの株式51%の売却が完了したと発表した。この取引は、中東での事業を合理化するAllianz Groupの事業戦略の一環と述べている。

2024年4月18日に、大手アクティブ投資運用会社のAllianz Global Investors(Allianz GI)は、中国証券監督管理委員会(CSRC)から、中国本土で外資100%の公募ファンド運用会社(FMC)として運営するための認可を取得したと発表した。この認可は、Allianz GIの中国本土市場への取り組みと、国内投資家に同社のグローバルな投資専門知識へのアクセスを提供する姿勢を強調するもの、と述べている。

2024年7月17日に、シンガポールの大手保険会社Income Insurance Limitedの少なくとも51%を取得する計画を発表した。急成長中のシンガポール保険市場での買収により、Allianzはアジアで9位から4位の総合保険会社に躍進することになる、としていた。ただし、この取引はシンガポール政府による反対の意見表明等を受けて、2024年12月16日に、事前条件付きのオファーを撤回するとの声明を発表している。

2024年10月29日に、スイスの総合保険会社Baloiseは、傘下の損害保険会社Friday Insuranceのドイツとフランスのポートフォリオを(Allianz Groupの欧州全域のオンライン保険会社部門である)Allianz Directに売却する、と発表した。

2024年11月5日に、Allianz Directがルクセンブルグに拠点を置く保険会社iptiQの欧州損害保険事業をSwiss Reから買収する、と発表した。この取引は規制当局の承認等を経て、2025年第2又は第3四半期に完了する予定である、としている。

2024年12月10日に「Capital Markets Day」を開催し、中期的な戦略と目標を説明しているが、この中で、バミューダに拠点を置く独立した戦略的再保険プラットフォームとしてSconset Reを設立することを明らかにしている。また、併せて、米国子会社のAllianz Lifeが40億ドルの固定指数連動型年金をSconset Reに出再するとしている。

2024年12月31日に、Allianz Australiaは子会社のHunter Premium FundingをPE(プライベートエクイティ)会社のPemba Capital Partnersに売却する、と発表した。この取引は2025年4月に完了予定としている。

2025年3月17日に、インドの損害保険・生命保険合弁事業の26%の株式をBajaj Groupに総額約26億ユーロで売却する、と発表した。これによるIFRSベースの予想利益は約13億ユーロで、ソルベンシーIIへの影響は6~7%ポイントのプラス、としている。

2025年3月19日に、Allianz、BlackRock、T&D HoldingsがViridium Group17に投資し、GeneraliとHannover Reはそのまま投資を続け、コンソーシアムに参加する、Cinvenは10年以上の投資期間を経て撤退する、と発表された。取引額は約35億ユーロで、所有権はコンソーシアムのメンバーと金融投資家に分配され、T&D Holdingsが最大のシェアを取得する18。なお、取引は、関係規制当局の承認等を経て、2025年後半に完了する予定としている。また、このコンソーシアムは、他の長期金融投資家の参加も可能な構造になっている。
 
17 Viridium Groupは、ドイツのクローズドブック生命保険統合会社で、英国のPE会社Cinven、ドイツの再保険会社Hannover Re、イタリアの保険会社Generaliの合弁会社である。運用資産は670億ユーロ、340万人の保険契約者にサービスを提供している。ドイツの保険監督官庁であるBaFinは、2023年にイタリアでCinven所有のEurovitaが破綻したことを受けて、Viridium Group が問題を抱えた場合にCinvenが支援しないのではないかとの懸念から、2024年にViridium GroupによるドイツのZurich Life Legacyの買収を認めなかった。
18 T&D Holdingsは、2025年3月21日に、子会社のT&D United Capital(TDUC)のViridium Groupへの出資についてプレス発表をして、本取引完了により、TDUCはコンソーシアム投資家の中で最大となる 29.9%の持分を取得し、ViridiumがT&D Groupの持分法適用関連会社となる、ことを公表している。
レポートについてお問い合わせ
(取材・講演依頼)