コラム

あなたはイカサマサイコロを見抜けますか?

2025年03月17日

(植竹 康夫) 保険計理

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突然ですが、あなたはイカサマサイコロを見抜けますか?今回はプレイヤー視点ではイカサマがいかに見抜きにくいのか、少し統計的視点を交えてお話ししたいと思います。

さて、2つのサイコロAとBを用意しました。AとBのうちどちらか片方は、すべての目が6分の1(約16.7%)の確率で出る正当なサイコロです。もう片方はある目だけが少しだけ出にくくなっています。具体的には、ある目が出る確率は7分の1(約14.3%)で、他の目は35分の6(約17.1%)の確率で出るいびつなサイコロです。

今AとBを100回投げる試行をし、出た目の度数(回数)を棒グラフにして並べてみました。一回ごとのブレもあるでしょうから、「100回投げる」という試行を各々5回行い左から順に並べています。理論値としては、どの目も100回×1/6=16.7回出るということになります。
この結果を見て、どちらのサイコロがイカサマされたサイコロで、そのうちどの目が「出る確率の低い目」かわかるでしょうか。少なくとも私には見抜けそうにないです。100回程度の試行では、ばらつきが大きく、多少の確率のゆがみは隠れてしまうのです。
 
100回サイコロを投げてもわかりそうもないのですが、これが何かのギャンブルであった場合、自分がサイコロを振る回数は1回だけである場合も少なくありません。1回振ったサイコロがどの目を出そうとも「運がよかった/悪かった」で済ませられてしまう話で、そこに疑問を挟む余地はありません。もっともサイコロの見た目が変とか、出た目の話以外の要素で疑義が生じる可能性はありますが。
 
ではもっと回数を増やした場合には、どうでしょうか。試行回数を10倍の1,000回に増やして同様に行ってみました。理論値的にはどの目も167回程度出ることになります。
どうでしょうか。勘の鋭い方なら、少なくともどちらのサイコロが怪しそうだな、と目星をつけられるでしょうか。試行回数100回では、20回以上出た目もありましたが、試行回数1,000回では200回以上出た目はありませんでした。試行回数が増えるほど、理論値からの乖離度が少なくなっていく様子が興味深いです。試行回数が増えるほど、理論値からの乖離度(分散)が小さくなり、それによって「元々の出る目の確率」が可視化されていきます。
 
さらに増やしていきましょう。試行回数10,000回、100,000回を列記します。

まず10,000回です。理論値は1,667回で、結果は以下の通り。
続いて、試行回数100,000回です。理論値は16,667回です。
ここまで見ると、どちらのサイコロがイカサマサイコロなのかわかりますね。答えは『サイコロA』の方で、「6」の目が少し出にくくなっています。
 
冒頭に「プレイヤーとして見抜けるか」と書きましたが、プレイヤーが関わる試行は高々数回であることが多く、本来的な「出る目の確率」が可視化できるほどのデータの安定性がないのです。また、今回はサイコロを、Excel上のランダム数値を発生させることで作成しました。「各目が確率6分の1で出るサイコロ」を理論上作成しているわけですが、実際のサイコロが本当に確率6分の1で出るのかどうか、その保証があるかどうかは私は寡聞にして聞きません。

サイコロの穴を削りだす前の状態(立方体)で重量的にバランスが取れていた(確率6分の1)としても、目の穴を削り出すことでバランスが崩れますし、その穴に黒および赤のインクを入れることでさらに重心が崩れると思うと、実際の「各目の出る確率」は意外と6分の1から大きくずれているかもしれません。

ご自宅に眠っているサイコロを10,000回程度振ってみて、出る目に有意な偏りが見いだせたら、そのサイコロを使って何か悪だくみができてしまうかもしれませんね。
 
(参考:試行回数1,000,000回の例。非常にきれいな差異が出ます)

保険研究部   主任研究員・気候変動リサーチセンター兼任

植竹 康夫(うえたけ やすお)

研究領域:保険

研究・専門分野
保険計理・保険会計

経歴

【職歴】
2007年 日本生命保険相互会社入社
2024年 ニッセイ基礎研究所

【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
・年金数理人

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