「騎馬戦型から肩車型へ」は現状誤認!?

基礎研REPORT(冊子版)12月号[vol.333]

2024年12月06日

(中嶋 邦夫) 公的年金

図表1は、私が一般の方へお話しする際によく使っている図である。日本の人口を約100年前から100年後まで描いたもので、「100年前の5000万人から現在は倍以上になり、100年後には5000万人に戻る見通しになっています。ただし、65歳以上の比率は50年前と大きく違い…」などとお話しして、年金改革の経緯の話につなげている。
100年前から100年後だと実感が湧きにくいので、20年前から20年後に絞って見たのが図表2である。15~64歳の人口が減少して65歳以上の人口が増えている現状や見通しを読み取れる。
しかし、15歳以上を就業者と非就業者に分けると様相が異なる[図表3]。就業者数は、2000年に6500万人で、2010年にはリーマンショックなどで6300万人に減少したが、2020年には6700万人に増加しており、2040年は6400万人と見込まれている。ごく大雑把に見れば、この期間には大きな変化がない、と言えよう。
このように15~64歳の人口が減少する一方で就業者数に大きな変化がない理由の1つは、高齢期の就業率の上昇である[図表4]。60代前半は2000年代の初めから、60代後半や70代前半は2000年代の後半から、上昇傾向が続いている。
日本の人口構成、特に現役世代が高齢世代を支える構図については、以前のおみこし型や胴上げ型から騎馬戦型に移り、今後は肩車型になっていく、と言われている。だがこれは、15~64歳人口と65歳以上人口の比率(図表5の紫の線)など年齢構成の比率を見たものに過ぎない。就業者と非就業者の比率で見れば、ここ10年以上は上昇傾向にあり、今後の就業率が現状どおりだったとしても、就業者と非就業者の比率に大きな変化はない見通しになっている(図表5の緑の線)。
確かに、就業者以外にも社会の支え手は存在するため、就業者と非就業者の比率が現役世代が高齢世代を支える構図を正しく示しているとは言い切れない。しかし、健康寿命の伸展や高齢期の就業率の上昇により、65歳以上の全員が支えられる側というわけでもない。年金などの社会保障制度を論じる際は、騎馬戦型や肩車型という年齢で区分した見方だけでなく、就業などの視点も加えて複眼的にとらえる必要があるだろう。

保険研究部   主席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査部長 兼任

中嶋 邦夫(なかしま くにお)

研究領域:年金

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

経歴

【職歴】
 1995年 日本生命保険相互会社入社
 2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
 2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
(2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)

【社外委員等】
 ・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
 ・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
 ・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
 ・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
 ・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)

【加入団体等】
 ・生活経済学会、日本財政学会、ほか
 ・博士(経済学)

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