では、こうしたエンゲージメント活動が、投資先企業の価値を増加させ、リターンを向上させているのであろうか。それを実証した論文はそれほど多くはないものの、いくつか存在する。その先駆的な論文はDimson et al.(2015)1である。Dimson et al. (2015) は、1999年から2009年の期間、アメリカにおける上場企業に対する機関投資家によるエンゲージメント活動がリターンをもたらしているのかを検証している。この研究の特徴は、コーポレートガバナンスを含んだ社会的責任に関するエンゲージメント活動に焦点を当てている点にある。本研究の結果では、エンゲージメントの成功は、企業価値に正の異常リターン(+7.1%)をもたらしている一方で、失敗した場合のリターンはなかったことが確認されている。エンゲージメント成功企業の営業成績、収益性、効率性、機関投資家の保有比率は、失敗した企業と比較して、全て有意に改善されていることも確認されている。エンゲージメントの成功確率は18%で、成功までに平均で2から3回の継続的な対話がなされており、成功までの期間は平均で1.5年(中央値)を要している。ESGのうち、G(ガバナンス)のテーマの成功確率は24%に対して、ES(環境、社会)は13%であった。しかしながら、同研究のサンプルが、2015年までのものであることを踏まえると、現在では状況は変わっている可能性はある。