日本のGDP速報(1次速報)は、当該四半期終了後1ヵ月半程度で公表されるが、諸外国に比べると公表のタイミングが遅い。たとえば、米国は当該四半期終了後1ヵ月弱、ユーロ圏は当該四半期終了後1ヵ月で公表される。かつては、日本のGDP速報の公表時期はもっと遅かった。2002年に推計方法の大幅な見直しが行われた際に1ヵ月弱前倒しされたが、それから20年以上公表時期は変わっていない。
GDP統計は国内の経済活動を包括的かつ整合的にとらえることができる重要な経済統計であり、公表が早期化されれば、経済動向の迅速な判断や適切な経済政策の立案に資することも期待される。しかし、公表の早期化と推計精度はトレードオフの関係にある。GDP統計は家計調査、鉱工業指数、国際収支統計などの様々な基礎統計を基に推計された加工統計である。このため、公表を早期化すれば、GDP速報の推計に用いることのできる基礎統計が少なくなり、推計精度が落ちてしまう恐れがある。
内閣府によれば、GDP速報(1次速報)を「当該四半期終了後+30日」で公表する場合、推計で用いている基礎統計のカバー率は、民間最終消費支出が現行の85%から61%、民間住宅が92%から59%、民間企業設備が59%から47%、輸出入が100%から67%へと低下する
1。当然のことながら、基礎統計のカバー率が低ければ、その後のGDP統計の改定幅が大きくなる可能性が高まる。
したがって、推計精度を落とすことなくGDP速報の公表早期化を図るためには、基礎統計の公表早期化が不可欠である。ところが、日本の経済統計は一部
2を除いて公表の早期化が進んでいない。たとえば、家計消費支出の推計に用いられる「家計調査」(総務省統計局)は、以前は概ね当該月の翌月末に公表されていたが、家計調査以外の統計(家計消費状況調査、家計消費単身モニター調査、消費動向指数)と同時に公表することに変更した2018年1月分以降、当該月の翌々月上旬に公表されるようになった。
また、家計最終消費支出、民間企業設備、民間在庫変動など幅広い需要項目の推計に用いられ、基礎統計としてのカバー率が非常に高い「鉱工業指数」(経済産業省)は、現在では当該月の翌月末(12月を除く)に公表されているが、かつては翌月末よりも早く公表されることもあった。1998年以降の「鉱工業指数」の公表日を確認すると、2000年頃まではほとんどの月で翌月末の2~3営業日前に公表されていた。しかし、その後は徐々に翌月末に公表されることが多くなり、2020年以降は12月を除く全ての月で翌月末に公表されている(図表1)。鉱工業指数の公表日は実質的に後ずれしている。
日本の経済統計は月次統計の場合、当該月の翌月末に公表されるものが多い。しかし、よく考えてみると、月によって営業日の数が異なるのに、公表日が必ず翌月末というのは不自然だ。
月次統計は、一般的には当該月終了後に調査票の回収、データの集計、加工、公表資料の作成等を経て結果の公表という流れとなる。1ヵ月の日数は月によって異なるので、公表日が翌月末ということは、月によって統計作成、公表に要する日数が異なることを意味する。たとえば、鉱工業指数の場合、2020年以降の公表日は12月を除いて翌月末となっているが、翌月初めからの営業日を数えると、18営業日目から23営業日目までばらつきがある(図表2)。当然のことながら、2月は日数が少ないので、公表までの営業日数が少ないことが多い。日数が少ない2月でも翌月末に結果を公表することができるのであれば、他の月は翌月末を待たずに公表することができるのではという疑問が湧く。