EUにおけるAppleへの制裁金納付命令-音楽ストリーミングアプリに関する処分

2024年04月17日

(松澤 登) 保険会社経営

■要旨

欧州委員会はAppleに対して、欧州機能条約102条違反行為があるとして18億ユーロの制裁金を科した。
 
具体的には、AppleはiOS(iPhoneとiPad)利用者に対して、App Store経由で音楽ストリーミングアプリであるSpotifyを配布している。Spotifyで音楽を定期購入するにはアプリ内で購入できるが、Spotifyの運営するウェブサイトでも購入し、支払まで行うことができる。
 
欧州委員会が問題にしたのは、アプリ外で購入に誘導するリンクをアプリ内に設置できないAppleのルールであり、これによって利用者の選択肢をなくすことで利用者体験を損ない、またAppleの支払手段利用料金が加わるため、利用者の定期購入の支払価格が高額となっている可能性がある。
 
これに対して、Appleは反論を行った。まず、アプリ外へのリンクは既にリーダーアプリという機能があり、利用者を誘導することが可能である。リンクをアプリ内に貼らないのはSpotifyの自発的判断である。また、AppleはSpotifyのシステム開発に多大な貢献をしたのに対して、まったく対価を支払っていないとする。
 
リンクを貼ることが禁止されていたのかについて、欧州委員会とAppleで真逆の主張がされている。Appleは訴訟を予告しているので、この点は今後明らかになろう。

■目次

1――はじめに
2――欧州委員会による調査
  1|欧州委員会の調査開始
  2|欧州委員会の二回目の異議通知の内容
3――欧州委員会による制裁金命令
  1|欧州委員会による制裁金命令
  2|違反行為
  3|法令の適用
4――Appleの反論
  1|SpotifyはAppleの技術を利用して巨大化したが、何の支払もしていない。
  2|SpotifyはAppleの課金ルールを変更したい。
  3|欧州委員会は消費者被害と反競争的行為の立証を行っていない。
5――検討
  1|総論
  2|Appleは関連市場で支配的地位にあるか
  3|Appleの行為は濫用行為か
  4|取引に悪影響を及ぼすか
6――おわりにかえて

保険研究部   専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登(まつざわ のぼる)

研究領域:保険

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴

【職歴】
 1985年 日本生命保険相互会社入社
 2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
 2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
 2018年4月 取締役保険研究部研究理事
 2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
 2024年4月より現職

【加入団体等】
 東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
 東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
 大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
 金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
 日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

【著書】
 『はじめて学ぶ少額短期保険』
  出版社:保険毎日新聞社
  発行年月:2024年02月

 『Q&Aで読み解く保険業法』
  出版社:保険毎日新聞社
  発行年月:2022年07月

 『はじめて学ぶ生命保険』
  出版社:保険毎日新聞社
  発行年月:2021年05月

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