尚、オフィス市場のなかでも二極化が進んでいる。「Flight to Quality(質への逃避)」の動きにより、築年が浅く、グレードの高いビルのオフィス需要が高まる一方で、老朽化・陳腐化したオフィスは苦戦している。マンハッタンの市況全体は低迷しているが、トロフィーオフィスと呼ばれる最上位のビルは高稼働を維持し、賃料も安定している。しかし、築50年以上のビルがオフィスストックの60%以上を占め、これらのオフィス需要回復は未だ不透明である4。
今後の焦点は商業用不動産のリファイナンスが滞りなく行われるかになる。現在はドライパウダー(投資待機資金)が高水準にあり、リーマンショック時の教訓から貸し手が「Pretend and Extend(目をつぶって返済期限を延長)」しているため、資金繰りに窮して不動産の投げ売りを強いられる例はまだ多くない。しかし、米FRBによる大幅な利上げにより、借入金利は急上昇し、米シリコンバレーバンクの破綻で顕在化した中小銀行の経営問題も依然として残っている。そのため、苦境が続くオフィス市場を中心に、商業用不動産は金融危機の潜在的な火種になりうるリスクとして、今後も注視が必要であろう。
1 MSCI Real Capital Analytics 2 実物不動産はNCREIF Property Indexのオフィス割合、REITはMSCI US REIT Indexのオフィス割合 3 CBRE,"San Francisco Office Figures Q3 2023, 9 October 2023. 4 Colliers,"The Future of Office - 2023", 27 January 2023.