日銀短観(9月調査)~大企業景況感は改善したが、中小企業の遅れが目立つ、設備投資計画は堅調を維持

2023年10月02日

(上野 剛志) 金融市場・外国為替(通貨・相場)

■要旨
 
  1. 9月短観では、大企業製造業・非製造業ともに景況感の改善が示された。製造業では供給制約緩和や円安進行による輸出採算の改善などが追い風となった。また、大企業非製造業では、経済活動正常化に伴うサービス需要やインバウンド需要の回復が景況感改善に寄与した。ただし、中小企業の景況感は横ばい圏に留まり、大企業と中小企業で格差が際立つ結果になった。
     
  2. 先行きの景況感は総じて慎重な姿勢がうかがわれる。製造業では利上げに伴う欧米経済の悪化や中国経済の回復の遅れ、足元の原油高・円安進行による原材料価格の再上昇などへの警戒感が重石になったとみられる。また、非製造業では、物価上昇に伴う消費の腰折れや人手不足の深刻化、原材料価格の再上昇などへの警戒感が台頭したと見られる。
     
  3. 2023年度の設備投資計画(全規模)は前年比13.0%増とやや上方修正された。例年9月調査では投資額が上乗せされる傾向が強いうえ、資材価格等の上昇を受けて投資額が嵩みやすくなっている面も押し上げ材料になったとみられる 。ただし、実態としても、既往の収益回復、経済活動の正常化の流れ継続、脱炭素・DX・省力化・サプライチェーンの再構築等に伴う投資需要を追い風として、堅調な設備投資計画が維持されていると言えるだろう。
     
  4. 注目された販売価格判断DI(大企業)については、仕入価格の上昇鈍化を受けて、総じて販売価格への転嫁の勢いがやや和らいでいる。先行きも大企業では仕入価格上昇の勢いが和らぎ、販売価格の上昇圧力も後退することが想定されている。一方、中小企業ではこれまで仕入価格上昇の販売価格への転嫁が遅れ、マージンが圧迫されてきた影響とみられるが、販売価格引き上げの勢いを維持する方針が示されている。なお、企業の物価見通し(全規模)は引き続き高止まりしており、各期間ともに日銀の物価目標である2%を上回った状況が維持されている。今後の企業による価格・賃金設定への影響が注目される。

経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志(うえの つよし)

研究領域:金融・為替

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴

・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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