そもそもサステナビリティ関連情報は、(1)利用者・使途、(2)トピックス、(3)使用目的、(4)測定手法・単位、(5)時間軸などが多様であることから、開示ニーズを満たすことが容易ではない。近年のサステナビリティ開示をめぐる研究は、こうした点を裏付けている。たとえば、Berg et al.(2022)では、複数のESG評価機関が提供するサステナビリティ情報を分析した結果、評価機関の間でESGスコアの測定手法、スコープ、重みづけで大きな乖離があることを確認している1。こうしたESG評価の分岐そのものは、企業のサステナビリティをめぐる取り組みの評価軸やそのスコア算出の基礎となる情報が標準化されていないことを示唆している。この結果として、近年は「グリーンウォッシング」など見かけ上のサステナビリティに関わる取り組みに基づき、金融商品を組成するような動きも進展している。サステナビリティ開示をめぐる制度整備が進展してきた背景には、その情報の比較可能性を高めることで、投資家などのステークホルダーが企業によるサステナビリティに関わる取り組みを評価できる環境を整備し、企業の説明責任を果たす状況を醸成する狙いがあると考えることができる。
1 Berg, Florian, Julian F. Koelbel, and Roberto Rigobon. "Aggregate confusion: The divergence of ESG ratings." Review of Finance26, no. 6 (2022): 1315-1344. 2 サステナビリティ情報も知財・無形資産と同様、価値創造への結びつきが多面的かつ長期的であり同様のフレームワークでの分析が可能である。知財・無形資産情報と企業価値の結びつきについては次を参照。https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/tousi_kentokai/pdf/v2_shiryo1.pdf 3 Serafeim, George. "ESG: From Process to Product." HBS Working Paper 23-069 (2023).