2021年9月、アリババやテンセントなどメガプラットフォーマーによる巨額の寄付が話題となった
2。その前月の8月の政府委員会の会議で、格差を是正し、国民全体がともに豊かになる「共同富裕」
3の実現が再度強調されたからである。中国では、企業や富裕層による寄付を社会における1つの分配方法ととらえ、「三次分配」として位置づけている。以下では、‘先に豊かになった’プラットフォーマーがそれ以外の企業と連携しながら、取り残された人々のリスクをカバーしていく手法の1つとして、保険商品を活用した例を紹介する。
2022年11月、中国の広州市慈善会は、テンセントホールディングス傘下の騰訊基金会
4、WeChatpay、微保(テンセント傘下の保険代理販売会社)、太平洋保険会社など企業や団体と合同で、慈善活動キャンペーンを立ち上げた
5。それは、広州市が認定した生活保護受給者、低所得者向けに、医療保険を提供するものである。具体的には、対象者は保険料1元(約20円)を支払うだけで、本来年間保険料180元(約3,600円)の医療保険に加入できるというものである。キャンペーンは広州市の民政局や商工会の認可を受けており、地方政府のお墨付きを得て実施された。
今回の取り組みとしては、集まった企業が資金やそれぞれ本業で得意とする技術を持ち寄り、業態の垣根を超えて1つの活動に取り組んでいるのが興味深い。例えば、スマホ上での通知の送信や、本人認証(広州市認定の対象者かの確認)、加入や給付の手続きはWeChat上で完了するようテンセント側が整備し、そのプロセスの確認は微保が担当する。応募する側にとっても、新たなアプリのダウンロードや煩雑な手続きは不要でWeChatのミニプログラム上で速やかに手続きが可能である
6。また、参加団体の1つである香江社会救助基金会(香江集団が出資して設立)は今回のキャンペーンの資金として100万元(約2,000万円)を寄付したことを発表しており、各社の寄付を合計すると2022年12月末時点で総額が600万元(約1億2000万円)まで増加した
7。対象者以外でも、WeChatのミニプログラムからテンセントの寄付プラットフォームにアクセスでき、寄付をすることができる。
提供されるのは、広州市医療保障局が運営に関わり、大手保険会社4社
8が合同で引き受けをしている医療保険(保険名「穂歳健康保険」)である。2020年に募集が開始された保険商品であり、期間は1年間で、通常加入する場合は上掲のとおり年間保険料180元(2022年、2023年)となっている。ただし、この医療保険は、広州市の市民向けに設計された保険商品であり
9、加入に際して年齢、戸籍の種類(都市戸籍/農村戸籍)、職業、既往症などの条件が問われないという特性を持っている。このような医療保険は、保険市場で販売される一般的な医療保険とは異なり、公的医療保険と民間保険の中間に存在する保険として補充医療保険に位置付けられている。
給付内容は、入院での治療費や特殊疾病の通院治療費、入院での薬代、検査費用などを対象としており、給付額は100万元(約2,000万円)と高額である(図表1)。ただし、給付内容によって免責額が1.6万元(約32万円)、4.5万元(約90万円)と高く設定されており、そもそも免責額分の負担が重いという問題に留意が必要である。その一方で、中国では、日本のような生活保護における医療扶助は整備が進んでおらず、貧困に陥るまたは貧困から抜け出せない原因の首位は病気による医療費負担となっている
10。今回提供される医療保険は免責額が高いものの、一定程度の負担が可能であれば、これまでの状況下では諦めていた大きな手術や長期入院などが可能になるという利点はある。