さてここまで長くはなったが、SNSにおける食のマイクロインフルエンサーの位置づけを筆者なりに考察した。SNSと「食」のマイクロインフルエンサーの関係が分かれば、本レポートにおけるピスタチオブームの解釈の理解に繋がると考えている。
ピスタチオブームにおいても、マイクロインフルエンサーの存在は欠かせないモノであったと筆者は考える。中でもアイスを専門に情報を発信するアイスマン福留氏の存在は大きかったように思われる。アイスマン福留氏は、アイスクリーム評論家として2010年にコンビニアイスのレビューサイト「コンビニアイスマニア」
8を開設、同時に「コンビニアイス評論家」として活動し、メディアでも活躍する言わばアイスのマイクロインフルエンサーである。コンビニアイスマニアは、人気のあるサイトではあったが、コンビニアイス、またはアイス自体に興味がないと同サイトへリーチすることは難しく、情報の取得者はサイト開設者により予め選定されていたといえる。しかし、SNSの普及により、同氏の発信する情報は広く拡散され、結果としてSNSにおけるアイス情報の一人者としての地位を築くこととなった。そこで、筆者としては、同氏による2014年当時新発売されたロッテ『ジェラートマイスター ピスタチオ』に関するツイートをきっかけに、昨今のピスタチオブームが始まったと考えている。前述した通り、ピスタチオはその当時、スイーツや美容フードとして認知されていたものの、チョコレートなどと異なり、ある意味ニッチなフレーバーであったことから、消費者は特定のファンに限られ、市場自体も大きくはなかった。従って、ピスタチオスイーツを買いたくとも、未だピスタチオスイーツを扱う洋菓子専門店がないエリアも多く、ピスタチオスイーツ愛好家という消費者が可視化されることは難しかったのである
9。その中でアイスマン福留氏のツイートは、アイスという人気トピックという事もあり広く情報が拡散し、そもそもの母数が少ないピスタチオ愛好家たちに情報がリーチできたのである。これに対して、ピスタチオを熱望していたニッチだがコアなファンからの反応は大きく、ここにピスタチオアイスという市場の可能性が見いだされたわけである。(表3)
次のヒットは2016年11月に発売されたハーゲンダッツのスペシャリテシリーズの「ピスタチオベリー」である。このアイスもアイスマン福留氏のツイートは1000リツイート超えるなど、大きな反響があった
10。スペシャリテは高級感のある特別なシリーズであるため、レギュラー商品よりも価格は高かった。しかし、当時はセブンアンドアイホールディングスの『セブンゴールド 金の食パン』ブームを始めとした高級フード、プレミアムフードブームの名残が残っており、プレミアムなテイストと、大衆的なナッツとは言えないピスタチオの特別感、クリスマスシーズンの色合いと合いまったデザインなどが消費者心理をくすぐり人気商品となった。ハーゲンダッツというブランドや、デザインがかわいいという点から、元々ピスタチオファンじゃない層にもリーチした。
ここまでを整理すると、それまで顕在化してこなかったピスタチオスイーツ愛好者は、SNSを通じてその存在を認識され、更に、マイクロインフルエンサーの情報拡散により、ピスタチオ愛好者以外の層も食べる(ピスタチオを認識する)機会が増え、そして関連する製品も増えていった、と言える。言い換えればマスメディアで紹介されることにより、ピスタチオの一過性なブームが生まれ、消費が拡大した訳ではなく、ピスタチオフレーバーを待ち望んでいた消費者がピスタチオ商品に反応し、そのニーズが顕在化したということである。
従って、2019年、2020年にブームが起きたと言われているが、このブームと呼ばれている根底には、既に以前からのピスタチオ愛好家の存在があり、これが商品の投入により顕在化し、そしてブームとして大きくなっていった、という事実があるのである。筆者自身は、このピスタチオが市場で存在感が増していった2014年に既にブームを感じていたため、2019年以降のピスタチオの人気をブームとしては捉えていなかったわけである。