政府は22年度予算案の優先項目としてモディ首相による国家マスタープラン「ガティ・シャクティ(スピードと力)」を挙げている。現在、インドでは建設ラッシュが続いているが、インフラの未整備により資材輸送に支障が生じ、建設計画が遅れて費用が嵩んでいるほか、渋滞の発生により排気ガス排出量が増加して大気汚染にも影響を及ぼしている。このため政府はガティ・シャクティを立ち上げ、鉄道と道路を含む16の省庁がバラバラに進めていたインフラ整備計画を統合して効率的に開発することにより、様々な輸送手段を通じたヒトとモノの円滑的・効率的な輸送網を構築しようとしている。物流コストを低減して国産製品の競争力を向上させることは、インド経済が持続的な成長を遂げる歩みや新たな雇用創出にも繋がるだろう。
一方、歳入は前年度比4.6%増の22.8兆ルピーと、景気回復による税収増を見込む。税制は仮想通貨を含む仮想デジタル資産に対する課税が明確化されたが、所得税や付加価値税などの基本税率の変更には踏み切らなかった。もっともインフラ整備計画には巨額の財源が必要であるため、インド政府は公営企業の株式売却(1兆3,000億ルピー)
2、公共インフラ資産の売却やリースによる収益化(1兆6,700億ルピー)
3などの税外収入を確保すると共に、開発金融機関(DFI)として昨年設立した金融インフラ開発銀行(NaBFID)
4の融資、インフラ投資信託(InvIT)や不動産投資信託(REIT)による民間資金の活用など資金調達手段の多様化を図っている。
以上の結果、22年度の財政赤字(目標)は対GDP比6.4%となり、昨年度から赤字幅が同0.4%ポイント縮小する見通しである。2020年度は新型コロナウイルスの感染対策のための大規模支出を実施したほか、景気低迷に伴う税収減により中央政府の財政赤字(対GDP比)が9.2%と、19年度の同4.6%から急増したが、21年度は同6.9%と、保健・インフラ分野への予算拡充、追加の経済対策等により拡張的な財政政策を続けたが、経済再開に伴う税収増によりに赤字幅が縮小したものとみられている。そして、政府の見通しどおりに22年度の財政赤字(対GDP比)が同6.4%となれば、2年連続の収支が改善することになるが、コロナ禍前の水準を上回る赤字が続くことには変わりない。
1 インド政府は2022年2月1日に2022年度国家予算案を公表、インド連邦議会の下院(Lok Sabha)が3月25日に同法案を可決した。
2 インド政府は、公営企業の株式売却による22年度の調達額目標を1兆3,000億ルピー(21年度の目標額は1兆7,500億ルピー)に設定。バーラト石油(BPCL)、インド海運会社(SCI)、インド・コンテナ会社(CONCOR)、Rashtriya Ispat Nigam Ltd.(RINL)、パワン・ハンスの政府保有株の売却を計画。現在は昨年度から後ろ倒しとなったインド生命保険公社(LIC)の新規株式公開の計画(約6,300億ルピー)が進行中。
3 インド政府は2021年8月に公共インフラ資産を収益化する「国家収益化パイプライン」を発表。2025年までの4年間で6兆ルピーを調達する目標を掲げており、21年度予算では8,800億ルピー、22年度予算では1兆6,700億ルピーとした。民営化や事業譲渡、運営・保守・譲渡等の官民連携(PPP)方式、インフラ投資信託(InvIT)の設立などを通じて資産の収益化を図る。
4 インド政府はNaBFIDに2,000 億ルピーの出資を拠出、500億ルピーの助成金を交付しており、今後数年間で3兆ルピーの資金調達を目指している。22年度は1 兆ルピーの融資目標を設定し、国内外のインフラ事業への投資を進める。
2――インフレ抑制の利上げで返済負担が増大へ