北嶋氏: 私たちはデイサービス施設で、各利用者さんと、大体週2回ずつリハビリをしています。利用者さんは、その時は一生懸命やってくれるのですが、それ以外の日は家のベッドで寝て過ごしたり、こたつに入ってテレビを観たりしている時間が多いのです。非通所日にはアクティビティが下がってしまう。それでは、その方の状態が良くなるはずがありません。
じゃあ、非通所日に自宅でアクティビティを上げる方法が何かあるかと言うと、庭に出るぐらいしかない。適当な外出手段が無いからです。そういう時に、福祉ムーバーを使って、行きたいところに行けるようになれば、いつの間にか元気になると考えました。非通所日にも、買い物ができる、友達に会いに行く、そのために洋服を選ぶ。孫の面倒を見てあげることもできる。そうなると、役割を持った活動ができ、リハビリの成果が試せる。
最近は、スーパーの郊外化、大型化が進んでいるので、例えばスーパーへ行くと、知らないうちに3,000~5,000歩ぐらい歩くし、店員さんや近所の人と会って20分ぐらい話をすることも多い。結果的に、知らないうちに健康になっていく。
エムダブルエス日高ではリハビリの専門職をたくさん抱えていますが、「リハビリ」だなんて大上段に構えなくても、こういう、気軽に外出して活動できる仕組みを作って、高齢者の方が「いつの間にか元気になっちゃった」というふうにするのが究極のリハビリなんだと職員に話しています。その仕組みを、「移動」を始点に作れたら面白いんじゃないかと思っているのです。
デイサービス施設は、山村や過疎地、離島にもある。バスやタクシーが無いところにもデイはあります。むしろ、過疎地では介護が基幹産業になっているところもあります。地域のデイが協力して、高齢者の外出を増やしていけば、認知症や廃用症候群の予防にも貢献できる。高齢者が免許を返納しても日常生活に困らない社会を作らないと、返納も進みません。送迎によって、高齢者を街中に誘導することができれば、店も開くし、まちづくりにも役立つ。こういうことに貢献するのが、福祉ムーバーの使命だと思っています。
坊: どこからそのような構想が始まったのですか。
北嶋氏: 昔、僕もデイの送迎をやっていて、利用者さんから帰りに「スーパーで降ろして。いったん家まで帰ると、また行くのが遠くなるんだよ」と言わることがありました。申し訳ないと思いつつ、「気持ちはわかるけど、できないんです」とお断りしていました。でも頭の中では「非通所日だったらできるかな」と考えていました。最近は核家族化が進んで、利用者さんも一人暮らしの方が増え、送迎を頼める家族がいないことは分かっていましたから。タクシーは高額だから気安く乗れないし、田舎でタクシーに乗ると「贅沢をしている」と言う目で見られる。
高齢者が外出できないと、例えば、本当は持病のために診察を受けないといけないのに受けていなかったとか、薬が無くなったのにもらいに行けないとか、命にかかわる。だからもっと気安く、通院できる仕組みを作らないといけないと思っていました。デイの車両なら高い運賃も要らないし、近所の目を気にせず、堂々と乗れる。だから、実現までに時間はかかるだろうけど、これをやっていこうと決意しました。
坊: デイサービスでリハビリを提供している時に利用者が動ければ良いのではなく、介護の目的は、その人が、デイサービスに来ていない日常生活で、より良い生活ができるようにすることであり、そのための専門的なお手伝いをすることがデイサービス施設の役割なんだということだという考えに、感銘を受けました。
デイへの送迎業務をタクシー会社に委託