案外知られていないかもしれないが、インドネシアは、オーストラリア、中国、インド等とともにG20の一員である。本年10月末にはG20サミットが同国のバリ島で開催される予定となっている。
インドネシアの人口は約2.7億人(2020年)で世界第4位。2020年の中位年齢は29.7歳、65歳以上人口の割合は6.3%と、人口構成はたいへん若い(内閣府『世界の統計2021』による)。2010年には1人当たり名目GDPが3,000ドルを突破し、2020年には世銀から上位中所得国入りが認定された。経済の成長とともに中間層が増加しつつある。それでいて、生命保険の普及率はいまだ低い。インドネシア生保市場のキャパシティ、魅力はわかりやすい。
当フォーカスでは2019年6月に、『
市場の拡大が続くインドネシアの生保市場-インドネシアの生命保険市場(2017)-』
1と題して、成長を続けるインドネシア生保市場の状況をレポートしたが、その後3年の間に、同生保市場も、業績の停滞やコロナパンデミックに伴う後退を経験した。歴史ある生保会社が破綻し、ユニットリンク保険を巡る苦情が多発する等、生保事業への信頼を揺るがす事態も顕在化した。
内閣官房「新型コロナウイルス感染症対策」ページ中の「各国別感染者数・死亡者数」から、インドネシアの2022年4月12日15時現在の新型コロナウイルス感染状況を見ると、累計感染者数が603万3,903人、累計死亡者数が15万5,674人となっている。これを日本の累計感染者数707万2,699人、累計死亡者数2万8,721人と比べると、累計感染者数はおよそ100万人少ないものの、累計死亡者数は日本の5倍強という状況になっている。インドネシアの人口が日本の倍以上あることを考えれば、感染の発生頻度はわが国の半分程度の感覚であろうか。人口構成が高齢化している日本の方がインドネシアより人口あたりの死亡者数が少ないのは、医療機関の整備度合いを表しているのかもしれない。パンデミックの最中、インドネシアでも、大規模な行動制限や外国人の原則入国禁止等の措置が適宜とられた。
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、近年5%前後で推移してきたインドネシアのGDP実質成長率も2020年には▲2.07%と、アジア通貨危機時の▲13.13%以来22年ぶりのマイナス成長となった。ただし、2021年には+3.7%へと持ち直しており、2022年以降は再び安定成長へ回帰すると見込まれている。
本レポートでは、こうしたコロナの影響を受けた2020年までの計数データから、最近のインドネシア生保業界の概況をまとめる。
本レポートで使用する統計データの主な出所は、インドネシアの保険監督当局であるOJK (Otoritas Jasa Keuangan=金融サービス機構)から公表されている『Statistik Perasuransian=Insurance Statistics=保険統計』である。新興国のこの種の統計データではしばしばあることであるが、この統計集でも同じ統計項目の数値が、表ごとに微妙に違っている場合がいくつかある。本レポートではそうした相違に目をつぶり、掲載されたそれぞれの表の数値をそのまま使用しているので、図表ごとに平仄が取れない場合もあることをご容赦いただきたい。
OJKのデータはインドネシアの通貨であるルピアベースで作成されている。2022年4月13日の為替レートは、1ドル=14,362.50ルピア、1円=114.11ルピアであり、1兆ルピアを日本円にすると約87.63億円となる。
本レポートでは、あわせてスイス再保険が毎年sigma誌面で公表している世界の保険料統計資料を使用する。こちらはドル換算ベースでまとめられている。
以下、インドネシアの生保市場の概況を、今回と次回の2回に分けて、計数図表とともに見ていく。
1――生命保険料収入(総生命保険料)の推移で見た市場動向