前節で述べた通り、コンセプトカフェで消費されるのは「空間」そのものであり、ただコスプレをしている店員が接客するだけでは成立しない。例えば明治末期(1911年)に東京・銀座に築地精養軒(現在の上野精養軒)が開設した『カフェー・ライオン』では現在の和風メイド喫茶のように店員は和装の制服にエプロンを着用していた
3。また、90年代に人気を博したペンシルベニア・ダッチスタイルの家庭料理をコンセプトとした「アンナミラーズ」なども独自の可愛らしい制服で接客をするなど、メイドカフェにも大きな影響を与えたと言われているが、どちらもあくまでも「食事」を提供することが目的にあり、食事に合わせて内装やコスチュームが決められている
食事先行型のテーマ性のある飲食店なのである。
では、「コンセプト」が提供されているカフェ(飲食店)とはどのようなモノがあるのだろうか。筆者はコンセプトカフェには大きく分けて1)コスプレ系、2)世界観再現系、3)動物系、4)コンテンツ系、5)文化系の5つの種類があると考えている。まず、1)コスプレ系であるが、客が非日常的な体験を求めて利用するタイプで、メイドカフェがこれに当たる。店内内装や店員の制服、食事や言葉遣いまで、ある特定のテーマに沿ってすべてが決められており、客は入店した瞬間から店側から提供される外の世界とは異なる非日常に言わば
ごっこ遊びのように身を置くことになり、癒しや、エンターテイメント性を体験することになる。昨今ではメイドに限らず、巫女や忍者、ナースやミリタリーなど、様々な需要に応えるかのように、十人十色のコンセプトが存在している。客は主に店員の身なりやサービス(如何に自身を非日常に没入させてくれるか)という接客そのものを求めて来店しているともいえる。
2)世界観再現系は、店員が必ずしもコスプレはしていないが、内装や食事の世界観が統一され、その世界観を求めて客が来店する飲食店である。前述したアンナミラーズが食事先行型のテーマ性のある飲食店ならば、世界観再現系は、
テーマ先行型のそれに沿った食事が提供される飲食店といえる。例えば監獄レストラン「ザ・ロックアップ」は、監獄個室というコンセプトの中で奇妙な食事や、突然の警報と「囚人が脱走しました!」という放送とともに始まるエンターテインメント体験など、テーマパークから得られるような視覚や聴覚に対する刺激を求めて客は来店している。他にも小学校を再現し、給食を食べることができる給食カフェや、映画『Always3丁目の夕日』の世界に迷い込んだかのようなノスタルジアを味わうことができる昭和カフェなどが存在している。
3)動物系は、猫カフェやふくろうカフェなど、動物との触れ合いが提供される飲食店である。1)コスプレ系や2)世界観再現系のように特定の世界観や物語が提供されているわけではないが、食事をするという行為は言わばおまけであり、「動物に触れあう」というブレない構想(コンセプト)が提供されている。
4)コンテンツ系は、映画や漫画アニメ、ゲーム、声優などコンテンツの世界観を提供するカフェのことである。コンテンツ系には(1)常設、(2)コラボの2種類が存在する。(1)常設の例であるが、秋葉原駅の間近にあった「AKB48カフェ&ショップ秋葉原」は大型モニターでAKB48のコンサートやMVを見ながら食事をしたり、カフェテーブルにあるメンバーが残したサインや落書きなどを楽しみながら食事をすることができ、AKB48というコンテンツを堪能することができる飲食店であった。このカフェはAKB48グループを運営する芸能プロダクション・株式会社AKSによって運営されていた。これと似た別の例を挙げると、株式会社エポック社は「シルバニアファミリー」の世界観を再現した「シルバニア森のキッチン」を運営している。いずれもコンテンツを保有する運営会社が、そのコンテンツの販促を目的に常設の店舗を用意しており、それ以外の用途(それ以外のコンテンツのプロモーション)を意図しての経営されてはいない。
次に(2)コラボであるが、キャラクター、アーティスト、映画、アニメやゲームなどの様々なコンテンツとカフェを連動させることにより、人気の高いIPコンテンツ
4を期間限定で楽しめるコラボカフェという飲食店が多く存在している。例えば株式会社レッグスは、全国10数か所においてコラボレーションカフェ専用スペースを運営している。IP選定、版権元との許諾契約をはじめ、 カフェ空間・オリジナルメニュー・ 限定グッズの開発、店舗オペレーションまでをトータルにプロデュースし、それぞれの店舗を期間限定で人気コンテンツのカフェとして開設している。コラボレーションカフェの店舗自体は株式会社レッグスが保有しているため常設であるが、その中身(コンテンツ)が期間限定で変化するとイメージしたらわかりやすいかもしれない。例えば、そのうちの一つ、東急プラザ 表参道原宿で運営されている「OH MY CAFE」は、2019年4月、当時最新作のディズニー映画であった『シュガー・ラッシュ:オンライン』とコラボすると、その後『アラジン』、『トイ・ストーリー』、『リトル・マーメイド』などの人気のディズニー作品とコラボを続けている。
一方、『鬼滅の刃』や『Fate』 などを手掛けるユーフォーテーブル株式会社(以下、ufotable)は、全国5都市及び韓国・中国にて、ufotable cafeや映画館を12店舗経営しており、そこでは、同社が手掛けるアニメとのコラボメニューや原画などの展示が行われている。自社が手掛けるコンテンツを使用したカフェを運営していることから、(1)常設のように見えるが、AKB48カフェやシルバニア森のキッチンの様に、特定のコンテンツのためだけにカフェが常設されているわけではない。ufotableが手掛けた作品とのコラボレーションをするカフェというコンセプトでみれば、ufotable cafeは、常設であることには変わりないが、個々のコンテンツの視点から見れば、常にそのコンテンツを堪能できるわけではなく、あくまでもufotable cafeで期間限定でコラボレーションされるコンテンツの一つに過ぎないのである。『鬼滅の刃』を例に挙げれば、いくらufotable の製作したコンテンツであっても、ufotable cafeに行けば常に鬼滅の刃カフェを楽しむことができるというわけではないのである。
また、株式会社エスエルディーが運営する「kawara CAFE&KITCHEN」はデパートに常設する普通の飲食店として通常営業しながら、期間限定でIPコンテンツとコラボを行っており、過去には子どもに人気の「ピングー」や「おさるのジョージ」をはじめ、カナダ出身の人気シンガーソングライター「アヴリル・ラヴィーン」ともコラボをしている。内装が普通の店舗であることから、どのコンテンツとコラボレーションをすることが可能で、内装の代わりに当該コンテンツの世界観を再現した食事を提供しているのである。