コラム

韓国の新規感染者数が初の4000人超え-なぜ、韓国では新規感染者数が増加し続けているのか?

2021年11月26日

(金 明中) 社会保障全般・財源

日本では新型コロナウイルス感染症の1日あたりの新規感染者数(以下、新規感染者数)が二桁まで減少していることとは対照的に、韓国では新規感染者数が爆発的に増加している。11月24日の新規感染者数は過去最大の4,115人を記録した。韓国で新規感染者数が4,000人を超えたのは初めてのことだ。
韓国の11月23日現在の新型コロナワクチン接種率は1回目が82.4%、2回目が79.1%で、日本の78.6%と76.4%を上回っている。さらに、3回目の接種(ブースター接種)率も4.1%に達する。ワクチンの接種率は日本とほぼ変わらないのに、なぜ韓国では新規感染者数が増え続けているのだろうか。
 
まず、最初の原因として考えられるのが接種された新型コロナワクチンの種類だ。新型コロナワクチンの確保に出遅れた韓国政府は、今年の2月3日にファイザー社製のワクチンを特例承認(正式に承認されるまでには医療従事者に限って接種が行われた。正式承認は3月5日)し、その後2月10日にはアストラゼネカ社製のワクチンを、続いて4月7日にはヤンセンファーマ社製のワクチンを、そして5月21日にはモデルナ社製のワクチンを次々と承認した。
 
その結果、2月26日から始まった新型コロナワクチンの接種は高齢者を対象にアストラゼネカ社製のワクチンが接種されることになった。その後、ファイザー社製やモデルナ社製の供給が増えたことにより、アストラゼネカ社やヤンセンファーマ社製の接種は大きく減少したものの、11月23日時点の1次接種者のうちアストラゼネカ社製やヤンセンファーマ社製のワクチンを接種した人はそれぞれ11,116,361人(26.3%)と1,497,303人(3.5%)に達し、全体の約30%を占めている。
厚生労働省のホームページでは、ファイザー社製やモデルナ社製の新型コロナワクチンの発症予防効果はそれぞれ約95%と約94%と、アストラゼネカ社製のワクチンの約70%より高い効果があると紹介している。また、アストラゼネカ社製のワクチンは他のワクチンに比べて感染を防ぐ中和抗体の減少が速いことが指摘されている。

この点を参考にすると、日本ではファイザー社製やモデルナ社製を中心に接種が行われたことに対して、韓国ではアストラゼネカ社製とヤンセンファーマ社製の接種者の割合が約3割を占めていることが最近の日韓における新規感染者の差に影響を与えたのではないかと推測される。
 
そして、二番目の原因としては、韓国政府が、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために続けてきた厳しい行動制限を大きく緩和したことが挙げられる。韓国政府は10月末時点で1日の新規感染者数は依然1,500~2,200人に達していたにもかかわらず、ワクチンの接種完了率が70%を超えたのをきっかけに、経済活動を優先させる方向にコロナ対策を切り替え、11月1日から第1段階の行動制限緩和策を実施した。
 
新たな対策では午後10時までとしていた飲食店の店内営業時間の規制を撤廃したほか、屋外スポーツイベントの観客も定員の50%まで入場できるように緩和した。また、ワクチン接種を条件に最大8人に制限していた私的な集まりも、ワクチン接種の有無に関係なく首都圏では最大10人まで、非首都圏では最大12人まで許容することを決めた。このように行動制限を大きく緩和したことが原因となっているのか、新規感染者数はじわじわと増加し続けている状況だ。
 
最後に筆者が考える3番目の原因は、韓国の気温が日本より低い点だ。新規感染者が最も多く発生しているソウルの今年10月と11月の平均最低気温はそれぞれ11.6度と4.4度で、同じ時期の東京の平均最低気温15.2度と8.3度を下回る。韓国では昨年も気温が下がる11月中旬から新規感染者が増加しはじめ、クリスマスに新規感染者数がピークに達した経験がある。今後日本でも気温が下がるにつれて、新規感染者数が増えるのではないかと心配である。
 
韓国政府は、現行の制限緩和措置を4週間続け、2週間の評価期間を経てから、第2段階で大規模イベントを許可し、第3段階では会食の人数制限を撤廃する方針である。しかしながら、11月に第1段階の対策を実施してから新規感染者数は増加してきており、今後さらに気温が下がることを考えると、現在より行動規制を緩和することはそれほど簡単ではないと考えられる。
 
今後ファイザー社製やモデルナ社製のワクチンを中心に3回目の接種(ブースター接種)率を増やすと共に、人々の気の緩みを最大限抑制することにも努めながら、新型コロナウイルスに対応していく必要があるだろう。日本では新規感染者数が大きく減少しているものの、まだその原因は正確に把握されていない。北海道では第6波の予兆が現れたという報道も出始めている。本文で紹介した韓国の事例が日本における第6波の波を極力小さくすることに貢献できれば幸いである1
 
1 本稿は、「韓国の新規感染者数が初の4000人超え。日本とは何が違うのか?」ニューズウィーク日本版 2021 年 11 月26日に掲載されたものを加筆・修正したものである。
https://www.newsweekjapan.jp/kim_m/2021/11/4000.php

生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中(きむ みょんじゅん)

研究領域:社会保障制度

研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計

経歴

プロフィール
【職歴】
独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
・2021年~ 専修大学非常勤講師
・2021年~ 日本大学非常勤講師
・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
・2024年~ 関東学院大学非常勤講師

・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
       東アジア経済経営学会理事
・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

【加入団体等】
・日本経済学会
・日本労務学会
・社会政策学会
・日本労使関係研究協会
・東アジア経済経営学会
・現代韓国朝鮮学会
・韓国人事管理学会
・博士(慶應義塾大学、商学)

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