前回のレポートで報告した「ナラティブ(narrative)(物語)」における説明で述べられているように、今回のシナリオは、資産が価格の低下によってマイナスの影響を受け、負債がリスクフリーレート及び潜在的に規定された保険固有のショックによって増加する、いわゆる「ダブルヒット」シナリオを特定する一連の市場及び保険固有のショックとして、翻訳されている。
市場リスクと保険固有のリスクを組み合わせたシナリオは、金融システムに対する一般的なシステミック・リスクに関するEIOPA/ESRBの現在の評価を反映している。
シナリオの重要な要素とその暗黙のショックは次の通りである。
・経済見通しの悪化は、長期リスクフリーレートがすでに歴史的な低水準からグローバルに低下していることに反映されており、EUでは名目短期及び長期リスクフリーレートがゼロを下回っている。これは、全ての主要通貨の全期間にわたるスワップレートの削減に反映されている。
・景気後退は、各国の財政ポジションを弱める。リスクフリーレートの水準が低いにもかかわらず、内需が弱まる中、公的債務の持続可能性に対する懸念が再び表面化したことで、特にスプレッドの広い国において、ソブリン債の信用リスク・プレミアムが大幅に上昇することになった。EU諸国全体で、10年物ソブリン債の利回りは28bps上昇している。
・企業の収益性は景気後退によって著しく損なわれ、債務の持続可能性への懸念と非金融会社の広範な倒産につながる。その結果、EUの社債の利回りは、セクターや発行者の信用格付けに応じて、平均で71bps~269bps上昇する。
・低金利にもかかわらず、不利なシナリオの下で世界とEUの両方の経済活動の深刻な縮小は、株式の大幅な再評価につながる。株価は、EUでは平均45%、他の先進国では平均43%、新興国では50%急落する。同様に、他の資産も厳しい再評価の対象となる。EU市場全体で、プライベートエクイティ、ヘッジファンド、不動産投資ファンド及び商品の価格は、平均してそれぞれ45%、45%、51%、40%下落する。
-住宅用不動産市場の活動の鈍化は、大幅な価格修正につながる。金融環境の引き締まり、経済活動の落ち込み、イールドカーブの反転を特徴とするマイナス経済見通しは、最初のショックの影響を増幅させる。その結果、住宅用不動産価格はEUレベルで8.4%下落する。
・COVID-19によって悪化した商業用不動産需要の構造変化は、商業用不動産の急激な価格改定を引き起こす。商業用不動産市場では大幅な価格改定が行われ、EUレベルで17.4%下落する。
3―市場ショック