欧州大手保険グループの2020年決算数値が、2021年2月から4月にかけて、投資家向けのプレゼンテーション資料やAnnual Report等の形で公表されている。今回のレポートでは、2020年決算に関わる各社の決算数値等に基づいて、欧州大手保険グループの生命保険事業を中心とした地域別の事業展開の状況について報告する。
欧州大手保険グループを巡る経営環境は、世界的な金融緩和の長期化に伴う低金利環境の継続に加えて、2016年1月にスタートしたソルベンシーIIをはじめとした各種の規制強化・整備への対応、(現時点においては)2023年1月以後に開始する事業年度から適用が想定されている新たな保険契約会計基準への対応等、数多くの課題を抱えている状況にある。さらには、気候変動、パンデミック、DX(デジタルトランスフォーメーション)等といった新たな課題への対応も従前以上に求められてきている状況にある。各社ともこうした環境下で、それぞれの戦略に基づいた海外事業展開の拡大・再編等を進め、収益基盤の再構築を図ってきている。
昨年の
基礎研レポートでは、欧州大手保険グループの地域別の事業展開状況について、2019年決算数値等に基づく現状分析を報告した
1。
これまでの基礎研レポートでも述べてきたが、以下の報告においては、例えば、分析用に開示されている保険料や営業利益
2のベースや地域別の区分の考え方が、各社によって異なっており、各社の公表データのベースも必ずしも統一されていない。さらに、
昨年のレポートでも述べたように、セグメント情報の提供において、必ずしも生命保険事業と損害保険事業を区分していない会社もあり、また各種の規制の動向等も踏まえて、これまでとは異なる経営指標や評価基準に基づく開示内容に変更してきている会社もある。加えて、2019年決算報告時とは異なるベースで2020年の決算報告を行っている会社もある。
以上のような理由から、今回の分析については、各種制約下で、各社間比較等も必ずしも十分なものとはなっていないが、筆者の判断で各種前提を置いて、一定比較可能と思われる数値を作成して分析を行っている
3。そのため、各社がそれぞれの考え方に基づいて開示している地域別の事業状況等の数値が、このレポートで筆者が独自に採用したベースとは必ずしも一致していないケースもあることを述べておく。
なお、2020年決算においては、新型コロナウイルスCOVID-19による影響も重要なトピックであるが、これについては、先の保険年金フォーカス「
新型コロナウイルスの感染拡大が保険会社に与える影響(2)-欧州大手保険Gの2020年決算発表による-」(2021.4.30)等で報告しているので、こちらを参照していただくことにして、このレポートでは詳しくは触れていない。
1 なお、2020年末のソルベンシーの状況については、筆者による、保険・年金フォーカス「欧州大手保険グループの2020年末SCR比率の状況について-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告(1)及び(2)-」(2021.4.6及び4.13)を参照していただきたい。
2 各社によって、Operating ProfitやUnderlying Earnings等と英語の名称が異なるものを、このレポートでは、必ずしも正確ではなく、厳密な意味での同等な比較にはなっていないが、また本来的には「基礎利益」等と表現することがより適切なケースもあるかもしれないが、以下では、基本的には「営業利益」との表現を使用している。
3 以下の図表においては、昨年報告した2019年数値についても、適宜2020年ベースに修正している。
2―欧州大手保険グループの各社間比較