また、フィンテック(FinTech)産業の誘致・育成も重要な要素として指摘されることが多い。フィンテックは、FinanceとTechnologyを組み合わせた造語だ。「金融サービスと情報技術を組み合わせた革新的な動き」などといった意味で用いられる。フィンテック産業によるイノベーションは、競争力の向上につながると考えられる。フィンテック産業の成長促進環境を構築し、フィンテック産業が集積する「ハブ」となることができた都市は、さらに新たな資金・企業・人材等を誘引する好循環(エコシステム)を生み出すことができるためだ。フィンテックが関わる金融サービス分野は、「決済」「保険」「ブロックチェーン」等多岐に渡る。
東京都は2017年に公表した「国際金融都市・東京」構想において、(1)都民が自らの持つ金融資産を有効に活用するために、金融サービスに革新をもたらす先進分野であるフィンテックの成長は不可欠、(2)IoT、AI、フィンテックといった先進分野に対し積極的にリスクマネーが供給され、産業が活性化されることが東京の成長戦略の中核となる、という視点から国際金融センター実現に際してのフィンテック産業促進の必要性を示している。
上述のZ/Yenグループもまた、フィンテックに注目しており、GCFI調査の中で同産業への規制をホットトピックに挙げ、フィンテック産業を促進する競争環境を有する都市はどこか、アンケートの結果をランキング形式で公表している。結果の上位には、ニューヨーク、北京を始めとする、米国や中国の都市が多く並ぶ。
なお、GFCIのアンケート調査からZ/Yenグループは、フィンテック産業の競争環境を生み出すために重要な要素として、「金融へのアクセス」「優れた人材の利用可能性の高さ」「ICTインフラ」「イノベーションを促進するエコシステムや産業集積」等を挙げる。
海外においても、フィンテック産業の誘致・育成に向けた取組みが実施されている。例えば、英国は、2018年3月に「フィンテック・セクター戦略」を発表した。規制緩和や優秀な人材の確保、インキュベーター
11との提携など、企業のニーズに応えた支援を実施する。政府のコミットを強化し、新たなビジネス機会の創出につなげることも目的とする。シンガポールでは、2020年8月に中央銀行に相当するシンガポール通貨金融庁が金融機関のフィンテック関連のプロジェクト導入や人材育成に3年間で約192億円を投じると発表した。また、世界最大級のフィンテックイベント「シンガポール・フィンテック・フェスティバル」を2016年より毎年開催している。また、中国は2020年に上海の自由貿易試験区において、金融機関とハイテク企業によるフィンテック企業設立を支援し、人口知能(AI)などの金融分野への応用や人材育成を後押しすると発表した。
日本においても、(1)イノベーションハブの設置
12、(2)規制サンドボックス制度
13、等の施策が実施されている。(1)については、2018年7月に金融庁内に設置された「FinTech Innovation Hub」等が代表的だ。(2)については、2018年6月より、生産性向上特別措置法に基づく「規制のサンドボックス制度」が創設された。この制度はフィンテック産業のみに限定された制度ではないものの、金融庁からも、現在(21年2月)のところ3件が認定されている。CB insightsによると、株式出資によるフィンテック産業への日本の合計投資額は、2017年の1.6億ドルから2019年には4.1億ドルに増加した。一方で、KPMGによると、ベンチャーキャピタル(VC)、プライベート・エクイティ(PE)、合併買収(M&A)による世界全体のフィンテックへの投資総額は、2017年の約544億ドルから2019年には約1,357億ドルへと大きく増加している
14。国別に確認しても、ほとんどすべての国において増加傾向が見られる。なお、2018年の中国の急伸はアント・ファイナンシャルによる大規模資金調達の影響が大きい(図表11)。