金価格、最高値更新はあるか?~金相場の見通し

2021年01月08日

(上野 剛志) 金融市場・外国為替(通貨・相場)

■要旨
 
  1. 昨年8月に史上最高値を付けたNY金先物は、その後もコロナの感染拡大に歯止めが掛かっていないにもかかわらず軟調な展開となり、史上最高値を150ドルほど下回っている。
     
  2. 従来、金相場と高い連動性がある米実質金利の足元の水準はNY金先物の最高値更新時と大差ない。さらに金相場の追い風となるドル安が当時よりも進んでいるにもかかわらず、NY金が最高値を大きく下回っているのは、安全資産としての金需要が鈍化したためと考えられる。昨年11月以降、ワクチン普及による経済活動正常化への道筋が見え始めたほか、大統領選が終わり、米政治の不透明感が緩和したことが影響した可能性が高い。
     
  3. NY金先物の見通し(メインシナリオ)を考えると、当面は堅調な推移が予想され、強含む場面も想定される。冬の間はコロナの感染が急減するとは考えにくいため、安全資産としての金需要が続くと見込まれる。また、米国では追加財政出動への期待が高まりやすく、米実質金利下振れが金相場の追い風になる可能性が高い。ただし、これらはある程度織り込まれているうえ、最高値までは距離があるため、更新は容易ではないだろう。
     
  4. その後、春以降は軟調な展開が予想される。米国でワクチン接種が進み、経済活動正常化への期待がいよいよ高まるためだ。実質金利が底入れし、相場の逆風が強まっていくだろう。大崩れはないものの、年末にかけて1800ドルを割る可能性が高いと見ている。
     
  5. なお、リスクシナリオだが、不幸にもワクチン普及が大幅に遅れ、米経済正常化が遠のく場合には安全資産としての金の需要が高まる。この場合、財政出動や金融緩和による実質金利低下も想定される。NY金は騰勢を強め、最高値を更新することになるだろう。「有事への保険」という本来の目的を鑑みれば、金を保有する意義は失われていない。
■目次

1.トピック:金価格、最高値更新はあるか?
  ・金相場を取り巻く環境変化は?
  ・金相場の見通し・・メインシナリオとリスクシナリオ
2.日銀金融政策(12月):「政策点検」実施の方針を表明
  ・(日銀)資金繰り支援策の延長を決定
  ・今後の予想
3.金融市場(12月)の振り返りと予測表

経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志(うえの つよし)

研究領域:金融・為替

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴

・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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