3|外部照射の技術革新が進み、高精度放射線治療が行われるようになっている
近年、外部照射の技術革新が進み、腫瘍にピンポイントで放射線を当てる高精度放射線治療が行われるようになっている。簡単にみていこう。
(1) 定位放射線照射(STI
11)
小さな標的に対して、多方向から高エネルギーの放射線を照射することで、腫瘍部分に高い線量を集中させる。体を固定する装置を用いて照射精度を高めることで、腫瘍にピンポイント照射を行う
12。その一方で、正常組織への線量は、大きく低減することができる。孤立性肺がん、肝臓がん、脳腫瘍などの治療で用いられる
13。
11 STIは、StereoTactic Irradiationの略。
12 照射中心における固定精度については、頭部では2ミリメートル以内、体幹部では5ミリメートル以内であることが求められる。
13 日本では、STIを、大線量を1回照射する定位手術的照射(SRS)と、分割して照射する定位放射線治療(SRT)に区分することもある。しかし、国際的には区分されていない。日本の診療報酬点数表でも、SRSとSRTの区別はない。
(2) 強度変調放射線治療(IMRT
14)
ビームごとの強度を変えて、複数方向からX線を照射する。複数のビームを組み合わせることで、腫瘍の形に合わせた照射ができる。その結果、隣接する正常臓器に対する線量を、著しく低下させることが可能となる。なお、IMRTでは、放射線治療計画装置(RTPS
15)というコンピュータを用いたインバースプランニング(次章にて詳述)を行って、照射する放射線の計画を立てることが不可欠となる。こうした高度な技術を要するため、現在のところ、治療できる医療施設は限られている。
14 IMRTは、Intensity Modulated Radiation Therapyの略。
15 RTPSは、Radiotherapy Treatment Planning Systemの略。
(3) 画像誘導放射線治療(IGRT
16)
精度の高い放射線治療を行うために、治療直前または治療中に撮影した画像を用いて、その画像をもとに治療位置を補正する。撮影装置付きの治療装置を用いて、CT画像またはX線画像をもとに、照射が行われる。
16 IGRTは、Image-Guided RadioTherapyの略。
(4) 強度変調回転放射線治療(VMAT
17)
IMRTのうち、放射線を放出する照射ヘッドを含む「ガントリ」といわれる部分を回転させながら、行う照射法をいう。IMRTのように、照射ごとにいちいち患者を静止させる必要がないため、照射に要する時間を大幅に短縮することができるという。
17 VMATは、Volumetric Modulated Arc Therapyの略。
(5) 陽子線治療
粒子線は、前章でみたとおり、体の表面から一定の深さに達したあたりに、線量のピークが急に出現する「ブラッグピーク」という性質を持つ。腫瘍の体表面からの深さを、このブラッグピークに合わせることで、正常組織への有害事象を減らしながら、がん細胞を死滅させることができる。
(6) 重粒子線治療
一般に、重粒子線治療で用いられるのは、炭素イオンの粒子であり、陽子線よりも明瞭なブラッグピークを持つ。このため、正常組織への影響を極力抑えつつ、強いエネルギーでがん細胞を死滅させることができる。ただし、重粒子線の発生には、シンクロトロンという大規模な施設が必要となる。