コラム

ふるさと納税のウソ、ホント(2)-年間上限額の範囲内なら、自己負担額は必ず2,000円?

2020年06月30日

(高岡 和佳子) リスク管理

ご存じの通り、『ふるさと納税とは、自分の選んだ自治体に寄附(ふるさと納税)を行った場合に、寄附額のうち2,000円を越える部分について、所得税と住民税から原則として全額が控除される制度です(一定の上限はあります。)』(総務省 ふるさと納税ポータルサイト ふるさと納税の概要 より引用)
 
一定の上限(以下、年間上限額)は、年収や家族構成によって大きく異なる。幸い、総務省 ふるさと納税ポータルサイトに、『自己負担額の2,000円を除いた全額が所得税(復興特別所得税を含む)及び個人住民税から控除される、ふるさと納税額の目安一覧(平成27年以降)』が示されている。併せて、『掲載している表は、住宅ローン控除や医療費控除等、他の控除を受けていない給与所得者のケースとなります。年金収入のみの方や事業者の方、住宅ローン控除や医療費控除等、他の控除を受けている給与所得者の方の控除額上限は表とは異なりますのでご注意ください。』という注意書きもある。
 
ふるさと納税を利用している給与所得者の大部分は、年収別かつ家族構成別のふるさと納税額の目安を参考にしているだろう。注意書きにあるように、あくまでも目安なので、年間上限額より少し控えめにしている人が多いのではないだろうか。控えめにしていれば当然、自己負担額は2,000円であると高を括り、本当に自己負担額が2,000円であるか否かを確認していない人も少なくないのではないか。確認すると、実は自己負担額が2,000円より高いかもしれない。

そして、仮に自己負担額が2,000円より高かったとしても、必ずしも、あなたがうっかり年間上限額を超えて寄付してしまったことが原因とは限らない。
 
そこで、「年間上限額の範囲内なら、自己負担額は必ず2,000円」がウソかホントか、確認したいと思う。

1――寄附金控除の仕組み

まず、ふるさと納税に関する寄附金控除の仕組みを説明する。ふるさと納税による減税は所得税の減税と住民税の減税で構成され、住民税の減税は一般分と特例分に分けられる。住民税からの減税のうち特例分は、寄付額から2,000円を差し引いた金額(以下、寄付控除対象額)に、「課税総所得金額から人的控除差調整額を控除した額」を基準に決まる割合(図表1)を乗じた金額である。
なぜ、課税総所得金額から人的控除差調整額を控除した金額によって割合が違うのか。そもそも、課税総所得金額と人的控除差調整額とは何だろうか。手始めに、収入が給与収入のみの会社員を前提に、所得税や住民税(所得割)の決定プロセスを収入から順を追って説明する(図表2)。

「給与収入」から、「給与所得控除」を差し引いた金額が「給与所得」である1。そして、「給与所得」から扶養控除や生命保険料控除など各種「所得控除」を差し引いた金額が「課税所得」である。さらに、「課税所得」に課税所得に応じた税率を乗じた値が税額で、税額から住宅借入金等特別控除などの各種「税額控除」を差し引いた金額が実際の「納税額」である。尚、給与収入以外の収入がある人もいるため、給与所得とその他の所得を合算した金額を総所得、課税所得を課税総所得と呼ぶが、収入が給与収入のみなら、上述のプロセスにおける「課税所得」と課税総所得金額は同じものとなる。
 
課税総所得金額から人的控除差調整額を控除した金額によって図表1の特例控除額の割合が異なる理由は、所得税の計算上、寄附金控除は「所得控除」であり、かつ所得税率は「課税所得」によって異なるからである。

つまり、所得税計算上の「課税所得」の水準によって税率が異なるため、所得税で減税される割合も異なる。従って、所得税と住民税から寄付控除対象額を控除する際には、住民税からの減税のうち特例分は、所得税計算上の課税総所得の水準によって割合を変えなければならないのである。
 
人的控除差調整額とは、所得税計算上の「課税所得」と住民税(所得割)計算上の「課税所得」の違いを調整するためのものである。所得税計算上も住民税(所得割)計算上も「給与所得」を計算するまでの過程に違いはないが、「所得控除」が異なり、結果として課税総所得金額も異なる。具体的には、基礎控除や扶養控除など「人」に関係する控除(以下、人的控除)に差があり、例えば、基礎控除や一般の扶養控除は所得税計算上38万円だが、住民税(所得割)計算上は33万円で所得税計算上より5万円低い2。このため、住民税(所得割)計算上の課税総所得金額は、所得税計算上の課税総所得金額より高い。人的控除の「所得控除」の差(基礎控除や一般の扶養控除の場合5万円)が人的控除差調整額であり、住民税(所得割)計算上の課税総所得金額から人的控除差調整額を控除することで所得税計算上の課税総所得水準に一致させるという仕組みである。
 
1 一定の要件を満たす特定支出をした場合で、その合計額が基準金額を超える場合は給与所得者の特定支出控除も差し引くことができる
2 所得税については令和元年分まで、地方税(所得割)については、令和2年分までの値である。

2――人的控除以外にも、所得税と住民税で取り扱いが異なる控除がある

所得税と住民税とで、「所得控除」の取り扱いが異なるのは人的控除だけではない。生命保険料控除や地震保険料控除の取り扱いも異なり、最大控除額の差はそれぞれ50,000円と25,000円で、併せて75,000円の差になる(図表3)。運悪く75,000円の差で所得税計算上の税率区分と、住民税の特例分の割合区分(図表1)がずれるとどうなるだろうか。住民税からの減税のうち特例分を計算する際に想定する所得税からの減税額と、実際の所得税からの減税額に差が生じる。このため、「年間上限額の範囲内なら、自己負担額は必ず2,000円」はウソということになるのである3
所得税と住民税とで、所得控除の取り扱いが異なるのは、人的控除と生命保険料控除および地震保険料控除だけでもない。所得税の計算上、寄附金控除は所得控除であるが、住民税(所得割)計算上は税額控除である。このため、生命保険料控除と地震保険料控除の取り扱いの差、最大75,000円だけでなく、寄付控除対象額それ自体も所得税計算上の税率区分と、住民税の特例分の割合区分(図表1)とのずれを招きうる。
 
課税総所得金額から人的控除差調整額を控除した金額が1,807万円の納税者(単身)を例にその影響を確認する。住民税(所得割)計算上の課税総所得は人的控除差調整額(5万)を加えた金額1,812万円で、住民税(所得割)は約181万円(住民税(所得割)の税率は一律10%)である。住民税からの減税のうち特例分の上限は、約36万2,000円(住民税(所得割)の2割)である。住民税からの減税のうち特例分は寄付控除対象額に49.16%を乗じた額なので(図表1)、寄付控除対象額の上限は約73万6,000円(36万2,000円÷49.16%)、ふるさと納税額の目安は、自己負担分2,000円を足した73万8,000円である。生命保険料控除と地震保険料控除ともに満額適用の場合で、73万8,000円分のふるさと納税を実行した場合と、全くしなかった場合を比較する(図表4)。

所得税からの減税額が24万7,980円、住民税の減税のうち一般分が7万3,600円、特例分が36万1,818円、合計68万3,398円分しか減税効果はない。自己負担額は約5万4,600円で、2,000円よりはるかに高い。
幸い、ワンストップ特例制度を利用した場合、所得税からの減税分も含めて寄付控除対象額のすべてが住民税から減税されるため、生命保険料控除、地震保険料控除および寄附金控除の取り扱いの差から生じる影響は回避できる。しかし、給与収入が2,000万円を超えたり、副業などにより給与所得以外の所得があったり、医療費控除の適用を受けたり、確定申告を行う必要がある場合(ワンストップ特例制度の適用を受けられない場合)で、課税総所得金額が税率区分の境目近辺の場合、たとえ年間上限額の範囲内でも、自己負担額は2,000円に収まらない可能性を覚悟した方がよい。
 
3 確定申告を行う場合、納税額計算上の端数処理の影響、自己負担額が2,000円から乖離する場合もある。
 
 

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