感染力でみる新型コロナの脅威ーワクチンができるまで「集団免疫」の予防策はとれない

基礎研REPORT(冊子版)4月号[vol.277]

2020年04月07日

(篠原 拓也) 保険計理

現在、新型コロナの感染拡大が、世界中で進んでいる。3月11日、世界保健機関(WHO)は、パンデミックと表明した。

人類は、有史以前から感染症との闘いを繰り返してきた。たとえば衛生環境の改善や、診療技術の向上などに努めてきた。しかしいまも、感染症の脅威から逃れることはできていない。新型コロナの感染拡大は、それを浮き彫りにしている。

感染症は病気の一種ではあるが、対処方法は通常の医療の枠にとどまらない。予防時や感染拡大時の対策は、自然災害に対処する場合に類似したものと位置づけられている。つまり、社会全体での予防や正確な情報の伝達など、世の中の幅広い領域に関係すると考えられている。

ここで、過去のパンデミックを振り返ってみよう。パンデミックとは、感染症が世界的に同時期に流行することや、流行する感染症そのものを指す。WHOは、流行状況に応じて4つの期を設定しており、「人への感染が世界的に拡大した段階」をパンデミック期と位置づけている。

スペインかぜでは最大5000万人が死亡

インフルエンザは、20世紀に3回、21世紀に1回のパンデミックを引き起こしている。特に被害が大きかったのは、1918年に発生したスペインかぜで、世界で5000万人が死亡したとされる(最大推計)。これは、1つの感染症による死亡者数としては史上最大級といわれる。

こうしたパンデミックの背景には、社会の近代化とともに、都市部の人口密集が進んだことや、鉄道、航路などの交通網が発達して人の移動が活発になったことなどがあると考えられている。

過去に日本ではコロナ感染はなかった

コロナウイルス感染症では、2003年に中国を中心に猛威を振るったSARS(重症急性呼吸器症候群)と、2012年にサウジアラビアで流行開始し2015年に韓国に飛び火したMERS(中東呼吸器症候群)がある。このウイルスは、電子顕微鏡で撮影すると太陽のコロナのような形をしているため、このような名前で呼ばれている。

SARSとMERSの死亡者数は、774人、858人(2019年11月,WHOサイトより)。いずれも日本国内での感染例はなかった。今回の新型コロナでは、すでに世界全体でこれを上回る死亡者が出ている。日本でも、多数の感染者、死亡者が出ている。

感染症ごとに異なる「感染力」

感染症の感染力を表すために、「基本再生産数」という概念がある。ある感染症にかかった人が、免疫をまったく持たない集団に入ったときに、直接感染させる平均的な人数を表す。この値が1より大きいと、感染は拡大する。

今回の新型コロナウイルスの基本再生産数としてWHOが出した暫定値は1.4~2.5だ。香港や英国の大学チームの見解では、3.3~5.5との報道もある。過去に経験のないスピードで感染が広がるかもしれないとの専門家の見方も出ている。

実は、はしかはこの値が16~21と非常に高く、コロナウイルスよりもはるかに感染しやすい。これは、コロナウイルスが主に咳やくしゃみなどによる飛沫感染(飛距離は2メートル以内)や、ドアノブなどに触れてうつる接触感染で拡大するのに対して、はしかはウイルスの粒子が小さく、長時間空気中に浮遊して、広範囲に感染が拡大する(空気感染)ためとみられている。ただし、感染症関連の学会は、新型コロナは、会話で生じる唾などがウイルスを含んで、閉鎖空間でごく短時間空気中に浮遊し、他者に感染させる可能性がある、と注意を促している。

総合的な感染力でみる新型コロナの脅威

日本では、感染症ごとにワクチンの予防接種が行われている。その結果、ワクチンがある感染症に対しては、9割を超える人が免疫を持っている。「免疫を持つ人が多いほど、感染症が流行しにくくなる」という考え方にもとづいた予防策は、「集団免疫」といわれる。

基本再生産数で表される素の感染力でみれば、はしかのほうが断然高い。しかし、ワクチン効果を含めた総合的な感染力でみると、ワクチンがないSARS、MERSの脅威が高まってくる。残念ながら、新型コロナにも、まだワクチンはない。実用化には、相当な時間がかかる見込みだ。

新型コロナは流行のピークがみえない。政府は全国の小中高、特別支援学校につき、春休みまでの臨時休校を要請するなど、史上に例をみない展開となっている。

一般の市民として大切なことは、一人ひとりがいますべき予防策(石鹸での手洗い、咳エチケットなど)を粛々ととることだと思われるが、いかがだろうか。
 
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