UNDPの指標の中で最も有名なのは人間開発指数(Human Development Index=以下ではHDIと称す)であろう。この指標は1990年にマブーブル・ハックが、人間が自らの意思に基づいて自分の選択と機会の幅を拡大させることを目的とする「人間開発」という概念を提唱したことに始まる。その度合いを測るために指数化したのがHDIであり、健康で長生きできるかを示す寿命インデックス(Life Expectancy Index)、教育を得る機会が十分かを示す教育インデックス(Education Index)、生活に必要な収入が得られるかを示す収入インデックス(Income Index)で構成される。収入インデックスは一人当たりGDPに近い概念でそれにほぼ連動する。この3つを幾何平均したのがHDIであり、通常0~1の間の値を取り、数が大きいほど開発度が高いことを示す。また、指数化しているため時系列分析や国際比較が可能という利点がある。中国についてHDI を構成する3つのインデックスの直近レベルを比較すると(図表-1)、寿命インデックス>収入インデックス>教育インデックスの順番となっており、過去10年の上昇幅を比較すると、収入インデックス>教育インデックス>寿命インデックスの順番となっている。また、経済成長の勢いが鈍化する中でも、3つのインデックスは揃って上昇傾向にある。但し、教育インデックスはここ数年やや停滞気味である。
また、中国経済の健康状態を見る上では、機会が平等に与えられるかも重要な視点となる。そこで、UNDPが開発した不平等係数(Coefficient of Human Inequality)を確認してみた。この係数は、健康で長生きできる機会が平等かを見る寿命不平等(Inequality in Life Expectancy)、教育を十分に得る機会が平等かを見る教育不平等(Inequality in Education)、生活に必要な収入を得られる機会が平等かを見る収入不平等(Inequality in Income)で構成されており、それぞれアトキンソン不平等尺度(Atkinson Inequality Index)を用いて評価した上で、3つを算術平均して求められる。なお、不平等係数は通常0~100の間の値を取り、数が大きいほど不平等であることを示している。図表-2に示した2012年と現在の対比を見ると、中国の不平等係数は22.1%から15.6%へ大幅に改善しており、特に寿命と教育の不平等の低下が著しい。一方、収入不平等も29.5%から27.4%へ改善しているものの、依然として高水準である。但し、国際比較して見ると、米国の収入不平等は逆に24.1%から26.6%へ拡大しており、中国との差はほとんど無くなってしまった。