動かぬドル円相場、米中協議の影響は?~マーケット・カルテ12月号

2019年11月21日

(上野 剛志) 金融市場・外国為替(通貨・相場)

11月に入り、米中協議の進展期待に伴うリスクオンの円売りや米経済指標改善に伴うドル買いによってドル円はやや上昇したが、ドルの上値は重く、膠着状態が続いている(足元も108円台半ば)。膠着の理由は投資家がポジションを傾けにくい状況が続いているためだ。米中部分合意への署名を巡っては、前向きな情報発信こそあるものの、合意条件を巡る意見の隔たりから交渉が難航しており、不透明感が払拭されない。また、FRBが現状の政策を当面維持する姿勢を示していることもドル円の動きを抑制している。

当面の焦点となる米中協議については、楽観はできないものの、両国ともこれ以上の景気への逆風は避けたいと考えているフシがあるため、遠からず署名が実現する蓋然性が高いと見ている。12月中旬に控える米政権による対中追加関税第4弾の発動も回避されるだろう。この際、市場ではリスクオンの円売りが見込まれるが、既にある程度織り込まれていること、部分合意後もさらに難しい協議が控えることなどから、反応は限定的になりそうだ。また、年初にはドル安圧力が強まるという季節性もある。従って、3カ月後の水準は現状比で多少の円安に留まると予想している。なお、仮に協議が決裂して関税第4弾が発動されれば、リスクオフで円が急伸するだろう。

今月のユーロ円は120円前後でほぼ横ばいが続いてきた。今後は、ドル円同様、遠からず米中署名に伴うリスクオンの円売りが予想される。また、総選挙を経て英国の合意無きEU離脱が回避される可能性が高いこともユーロのサポート材料になる。一方でユーロ圏の景気低迷がユーロの重荷になるため、3カ月後の水準は現状比でやや円安に留まると見ている。

今月の長期金利はリスクオンに伴う米金利上昇を受けて一旦上昇した後にやや低下し、足元は▲0.12%付近で推移している。今後は、為替同様、遠からずリスクオンの上昇圧力が予想されるものの、米利上げが見通せない以上、米金利の上昇余地は乏しい。また、マイナス金利見合いである▲0.10%より高い水準では根強い債券需要が見込まれることも金利を抑制する。3カ月後も現状並みに留まると見ている。
(執筆時点:2019/11/21)

経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志(うえの つよし)

研究領域:金融・為替

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴

・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

レポートについてお問い合わせ
(取材・講演依頼)