外需については、輸出は世界経済の減速を通じて弱含んでいくだろう。通関ベースでは、6月から8月にかけて3ヵ月連続で輸出総額が前年比減少となるなど、輸出の減速が明確となりつつある。一方で、輸入は内需の回復を背景に緩やかな拡大が続くことから、純輸出の成長率寄与度は悪化するだろう。
先行きの懸念材料として、ボルソナロ政権が掲げる自由貿易が頓挫することが考えられる。ブラジルが属するメルコスール(南米南部共同市場)
6は、7月にEU、8月にEFTA(欧州自由貿易連合)と、立て続けにFTA(自由貿易協定)の合意に至った
7。特にEUとは20年越しの合意であり、この背景として、メルコスール2大国であるブラジルとアルゼンチンで、近年左派政権から右派政権に交代したことがある。しかし、アルゼンチンでは10月に予定されている大統領選挙の予備選挙が8月中旬に行われた結果、中道右派のマクリ現大統領が中道左派のフェルナンデス元首相に大差で敗れ、本選挙の行方が危惧されている。フェルナンデス氏は、FTAに否定的な考えを示しており、同氏が大統領となった場合、先の合意が白紙となる懸念が生じている
8。
また、ブラジル自身もアマゾンの大規模火災を巡って、EU諸国との関係が悪化しており、FTAの停滞やブラジル産製品の禁輸や不買運動が本格化する懸念が生じている。現在、世界最大の熱帯雨林アマゾンで発生している大規模な火災に対するブラジル政府の対応を巡り、国際的な批判が高まっている。ボルソナロ大統領の支持基盤の一つが農業団体であることや、自身が地球温暖化に懐疑的であることから、アマゾンの開発を奨励しており、森林の伐採や焼き畑農業が増加した結果、大規模な火災に繋がったと考えられている
9。国際的な批判を受けた当初、ブラジル政府は消火活動に消極的な姿勢を示していたが、欧州諸国が対抗措置を示唆した結果
10、同大統領は態度を軟化させ、消火活動に軍を派遣し、焼き畑農業を60日間禁止とした。今回の一件を巡って、ブラジルのアマゾン開発に対して国際的な批判が高まっており、仮に火災が沈静化しても、FTAの停滞やブラジル産製品の禁輸や不買運動が本格化し、経済へ悪影響を与える懸念は燻り続けるだろう。
5 連邦政府は、8月中旬に、今後民営化する9つの国営企業を発表し、PPI(官民投資計画)の対象に含めた。この結果、大手電力会社エレトロブラスなど、既にPPIの対象であった8企業と合わせて17企業の民営化が見込まれる。
6 メルコスールはブラジルやアルゼンチンなど南米の国で構成される関税同盟(1991年創設)。
7 メルコスールはさらにカナダ、韓国、シンガポールとのFTA交渉を進行している。
8 ボルソナロ大統領は、元来多国間関係より二国間関係を重視していると見られ、10月のアルゼンチンの大統領選挙で左派政権が誕生した場合、ブラジルがメルコスールを脱退する可能性も否定できない。
9INPE(ブラジル国立宇宙研究所)によると、19年1月-8月の合計森林火災件数は前年同期比76%増となっている。
10 フィンランドがブラジル産牛肉の禁輸をEUに提起した他、フランスがメルコスールとEUのFTAに批准しないことを表明した。また、欧米の衣料・靴業界がブラジル産素材の不買運動を開始するなど個別業界や企業でも動きが見られる。