3|コレラは、地球温暖化により海水温が上昇することで、感染拡大のリスクが高まっている
コレラは、ビブリオ・コレラという細菌の感染症である。感染者の便に含まれる細菌が、水や食物を通じて経口摂取されて感染する。感染者の8割程度は症状を出さないとされる。症状が出た場合、急性の激しい下痢を繰り返し、重症の脱水状態となる。重篤な場合には、死に至るケースもある。
コレラの原因菌は、コレラ菌のうちO-1血清型とO-139血清型のもので、いずれもコレラ毒素を産生する
23。これに対しては、水道水の塩素消毒が重要となる。
19世紀には、コレラが何度も世界的に流行した。明確なコレラ・パンデミックは、6回あったとされる。1854年には、イギリスの麻酔科医ジョン・スノウが、第3回のパンデミックのロンドン市内での流行について、感染者・死亡者の分布と、井戸の分布を地図で重ね合わせることにより、感染の原因が飲料水の汚染であることを突き止めている。これは、疫学を用いて感染症を終息させた偉業として現代に語り継がれている。
現在は、1961年にインドネシアで始まった第7回のパンデミックの途中とされる。近年は、地球温暖化の影響で海水温が上昇しており、コレラ菌が生育しやすい環境になっている。このため、世界各国で、感染拡大に対する警戒が高められている。
23 O(オー)は、O抗原という細胞壁の抗原を意味する。コレラ菌は、O抗原によって200種類以上の血清型に分類されている。
4|エボラウイルス病は、開発されたワクチンの効果が期待されている
エボラウイルス病は、主に、アフリカ中部やサハラ砂漠以南の西アフリカで発生する。CDCのまとめによると、1976年の流行
24を皮切りに、これまでに28回のアウトブレイクが起きている。特に、2014~16年に西アフリカのリベリア、ギニア、シエラレオネで起きたアウトブレイクでは、感染者数28,652人、死亡者数11,325人、感染者の致死率は約4割に上った
25。なお、統計にカウントされていない感染者や死亡者がいるとみられ、実際の犠牲者はさらに多数であったと考えられている。
エボラウイルス病の病原ウイルスは、オオコウモリを宿主としているという説が有力となっている。感染経路は接触感染であり、患者の体液と接触することで感染が成立する。感染の拡大には、いくつかの背景がある。アフリカ中部での流行では、流行地域が過疎地域で、貧困であったため医療器材が不足し、病院内での注射器の使い回しが行われたことによる院内感染が起きた。一方、西アフリカでの流行は都市部で発生した。死者の埋葬の際、死者を悼んで体を抱擁したり手足をさすったりする、この地域特有の風習があり、これが接触感染を引き起こしたとされる。
また、2014年の西アフリカのケースでは、アメリカから派遣された医療従事者が本国に帰って二次感染を起こした。飛行機による人の高速移動が、別の地域に二次感染を引き起こす事例となった。
2018年の夏にコンゴ民主共和国で発生したアウトブレイクは、2019年8月14日時点までに、患者2,852人、死亡者1,913人(それぞれ94人の高可能性例を含む)を出している。WHOは、この事態を受けて、7月17日に緊急事態宣言を出している
26。エボラウイルス病については、ワクチンが開発されており、接種を通じた感染拡大防止効果が期待されている
27。
24 この病気は、初期の流行地域であるザイール(現コンゴ民主共和国)のヤンブクを流れるエボラ川にちなんで、「エボラ出血熱」と呼ばれた。患者が激しく出血することから出血熱と名づけられたが、出血を伴う前に死亡する患者もいることがわかり、WHOは2014年に病名を「エボラウイルス病」に変更した。
25 "Ebola Virus Disease Distribution Map: Cases of Ebola Virus Disease in Africa Since 1976"(CDC)による。(アドレスは、https://www.cdc.gov/vhf/ebola/history/distribution-map.html)
26 これまでに、WHOが緊急事態宣言を出した事例として、中南米でのジカ熱の流行(2016年2月)、西アフリカでのエボラウイルス病の流行(2014年8月)、パキスタンやシリアでのポリオ(小児まひ)の流行(2014年5月)、新型インフルエンザのパンデミック(2009年4月)がある。
27 別途、薬剤を用いた試験的な治療も実施されている。出資元のアメリカ国立衛生研究所(NIH)は8月12日に、実施した4種類の治療法のうち、REGN-EB3またはmAb114の薬剤を用いた治療法は患者の生存率が高く有効だった旨の発表をしている。