前提として、2,000人の感受性あり(S)の集団に、1人の感染中(I)の人が加わるものとする。当初の時点では、耐性あり(R)の人は、いない(0人)ものとする。全体の人数(N)は、2,001人となる。
また、1回の接触での感染確率(β)を0.1、単位時間(1週間)あたりの接触の回数(κ)を21回(つまり1日平均3回)、感染症が感染性を保つ平均時間(D)を1週間、とおく。これは、基本再生産数R
0を、2.1(=β×κ×D)とおいたことに相当する。
この前提のもとで数値計算を行ってみると、上記の図のとおり、Sは時間とともに減少して、最終的に201.6人となる。Iは当初増加するが、11週目頃に431.9人とピークを迎えて、それ以後は減少して最後に0人となる。Rは時間とともに徐々に増加して、最終的に1,799.4人となった。Sが0人まで減らずに201.6人でとどまったのは、時間とともにRが増えて、集団免疫が働いた効果とみられる。
このモデルは、βやκなどの値を時間の経過によらず一定と置いているため、「決定モデル」といわれる。実際には、βやκなどの値は一定とは限らない。そこで、これらの変数に偶然(ランダム)の要素を入れて「確率モデル」としてモデルを構成することもある。そして、この確率モデルで、何回も(たとえば 1万回も)繰り返して計算を行って、集団人数の変化の変動幅をみていく。このように、予測結果と、その信憑性をあわせて把握していくような研究も行われている。
なお、感染症に関する数理モデルについては、つぎのような限界があるとの指摘もある。
― 性別や年齢などの違いにより、感染の仕方は異なるはずだが、モデルはこれを無視している。
― 感染して発症した人は、医療施設に入院したり、自宅で療養したりするため、他の人との接触の機会が減るはずだが、モデルはそうした点を加味していない。
― 同じ感染症でも、空気感染、飛沫感染、接触感染などの複数の感染経路があり、感染確率等が経路によって異なるはずだが、モデルは感染経路を1つに限定している。
SIRモデルの計算結果をみる際には、こうした限界を踏まえておくことが必要と考えられる。
39 さらに、SとIの間に、感染症に曝露しているが潜伏期間中で発症していない人(Exposed, E)の集団を設けて、SEIRモデルとして研究が行われることもある。
5――感染拡大防止策と感染予防策