国民投票から2年半が経過し、離脱期限が3カ月後に迫って、様々な選択肢が浮上している現状を、英国の世論はどう受け止めているのか。
実は、世論調査の結果は一様ではない。調査会社・ユーガブが12月17日に公表した世論調査
20を見る限りでは、英国民はノー・ディールを望んでおらず、再国民投票があれば、ノー・ブレグジットが選択される可能性が高い。同調査では、ノー・ディールは「悪い」が49%、「良い」が16%、「違いがない」が19%、「わからない」が16%である。残留か協定案による離脱かノーディールかの3つの選択肢による国民投票を「支持」する割合は44%、「不支持」が35%、「わからない」が21%を占める。「議会が決められない場合」という前提であれば、3つの選択肢による国民投票を「支持」する割合が50%に上昇する。「もう一度国民投票があったら、どのように投票するか」という問いに対する回答では「残留」が46%、「離脱」が37%を占める。
しかし、調査の結果は、設問によって、かなり違ったものになる。調査会社・オピニアムが12月21日に公表した世論調査
21では、「議会が否決した場合、次に何が起こるべきか」という問いに対する最も多い回答は「ノー・ディール(追加の投票を行わず、合意がないままEUを離脱する)」で全体の29%を占めた。この結果を見る限り、財務省やBOEの試算結果や政府が発する注意喚起はあまり効果を発揮していない。16年の国民投票の際、離脱の悪影響を強調する残留派のキャンペーンが「恐怖プロジェクト」と揶揄され、軽視されたのと同じように受け止められているのかもしれない。メイ首相が、EUとの将来の関係について、単一市場からも関税同盟からも離脱する方針を初めて明らかにした17年1月のランカスター・ハウスでのメイ首相の演説に盛り込まれた「ノー・ディールは悪いディールよりもまし(No deal is better than a bad deal)」というフレーズが、離脱支持者の間に定着しているからかもしれない
22。
オピニアムの議会否決後の選択肢に関する調査で、「ノー・ディール」に続くのが、「協定案による離脱か残留かを問う国民投票」で全体の20%を占める。同社の14日公表の調査では「ノー・ディール」と並んでいたが、21日の調査では低下した。民意を問うべきという票が「総選挙」や「協定案による離脱か合意なき離脱かを問う国民投票」に割れることもあり、残留という選択肢を含む国民投票への支持は低くなっている。
ただ、共通する傾向として観察されるのは、2016年の国民投票が浮き彫りにした、英国内の地域、世代、職業や階層などによるEU離脱に対する考え方の違いは、2年半が経過しても余り変わっていないことだ。ユーガブの調査で「残留」を支持すると答えた人の大半は、16年の国民投票で残留に票を投じており、「離脱」についても同様だ。年齢層が高くなるほど、離脱を支持する割合が高くなる。地域別にはロンドンとスコットランドで残留支持が高い点も同じだ。オピニアムの調査では、16年の国民投票で離脱を支持した人々の51%がノー・ディールを支持する。年齢層が高くなるほど、ノー・ディールへの支持が高くなる傾向があり、65歳以上、引退者は、およそ半数がノー・ディールを支持する。
逆に、国民投票や総選挙など、「何らかの形で民意を問うべき」とする割合は、残留に票を投じた人々の間で高い。オピニアムの世論調査では、全体では「はい」が46%、「いいえ」が41%だが、残留に票を投じた人に限れば、「はい」が69%、「いいえ」が18%である。民意を問うことへの賛成は、年齢層が若いほど高く、年齢層が高くなると低くなる傾向が顕著だ。
ノー・ブレグジットは、経済合理性では最善の選択肢だが、改めて民意を問うことについて、多くの有権者が納得し、結果を受け入れる土壌がなければ、国内の対立は解消せず、分断を深めるおそれもある。
エリザベス女王は、12月25日のテレビを通じたクリスマス演説で「たとえ、深い意見の対立があっても、他の人々を同じ人間として敬意を持って扱うことは、常に理解を深める第一歩となる」として、分断の修復を訴えた。
2019年の英国は、分断を抱えたままノー・ディールというさらに不安定な環境へと突き進むのか、残留派と離脱派の折衷案、EUとの妥協案による秩序立った離脱を支持することで歩み寄り、分断の修復へと動きだすのか。それとも、メイ首相の協定案でEU離脱という現実の厳しさに直面したことで、もう一度、民意を問おうという機運が高まり、今度は次世代を担う若い世代の声を尊重し、ノー・ブレグジットに向かうのか。
1月中旬の下院の採決に向けてはなお紆余曲折がありそうだ。有力なシナリオがないことが、この問題の悩ましさだ。